30話 惨劇
有り得ない光景に目を奪われる
息も無く横たわる集落民
うつ伏せに倒れている者も居れば、仰向けに倒れている者も居る
姿の残る者も居れば、腕、脚……
頭部しか無い者まで……
その元、ヒトであったソレ
体の残る者には大きな傷も有れば、引っ掻かれた様な小さな傷も見受けられた
ただ、奇妙なのは……
小さな傷は、到底死に至るとは思えない程に小さな…… 小動物にでも付けられた様な些細な物だった
だが、間違いない事……
確かに受けた小さな傷でも、その元、ヒトであるソレの魂は……
この世に……
カタストロフィに現存しないという事実だった
極力の冷静を持って辺りを見回す
不意に目に付くヒト
姿
形
そして、衣服
僕はソレに駆け寄った
折り重なる様に倒れた2人
人型の神
地に倒れたアース
それを庇うかの様に上に被さったムーンの姿だった
「く……」
「あ……」
2人が呻く
生きている!
僕は2人を優しく仰向けに寝かせた
【どうした!? 何があった!? コレは…… この集落は…… 何だ!?】
うっすらと目を開けたムーン
「ノア様…… 何が…… 起きたのか…… 俺にも……」
【いい! 解った! もう喋るな!】
やはり何か予期せぬ事態が起きた
ムーンもまた、僕の力を受け継いでいる
ラピスを使っても事態を収拾できなかったのか!?
いや、違う
彼はアースの上に重なって倒れていた
彼女を守ったからか……
それよりもマズい……
2人の魂が本体から離れようとしている
ソレを即座に理解した
彼等の体にも大きな傷は確認出来ない
何が起きているのか……
ただ、そんな考えは捨てた
今、2人の命が尽きようとしている
やる事は1つ、傷の修復だ
僕は右手を閉じて蒼き穴、サファイアのゲートを開く
そして彼等を包み込んだ
程なくして大きさを縮めたゲート
ソコに在った2人の姿は、変わらず息絶え絶えで…… 魂の離脱が見える
だが、小さな傷は確かに消えていた
なぜだ!?
傷は消えた
しかし、魂は離れようとしている!?
傷が原因じゃ無いのか!?
ダメだ
このままでは本当に2人が消えてしまう
僕は叫んだ
【悪いがお前達には時間が無い! お前達が消える事だけはさせない! 今、お前達を救う為には魂を1度取り上げる、そして転生させる! ソレしか無い! 合否は聞けない!】
「ノア様の…… お望み通り…… に……」
消え入りそうなムーンの言葉
心が締め付けられる
【ああ! 僕を信じろ! そうだ…… 地球…… 地球でヒトとして生きろ! 時間が無い! 2人の魂を取り出す! 終焉の門に飛ばすから対面の河を走り抜けろ! 転生の門まで一気に飛べ! 良いな、転生の門だぞ! 行っっけぇぇぇぇぇぇーーーーー!!!!】
その後の言葉は聞かずにムーン、アースの魂を取り出す
両手に乗せた御霊をサファイアで包んでコーティング
意味があるかは解らない
それでも修復の時間稼ぎのつもりで行った
御霊を取り除かれた2人の肉体が煙の様に姿を消す
僕は目を背けた
いや、ダメだ
悲しみに心を支配されるわけにはいかない
今の最優先は、彼等をどの世界であっても生かす事
間違う事は許されない
冷静を取り戻した僕は、次にルビーの穴を開いてゲート・オブ・カタストロフィ、終焉の門へと魂を移した
この集落から遠く離れた門
その前に魂の気配が移った事を実感した僕は、気持ち程度ではあるが追い風を吹き荒れさせた
少しでも早く辿り着く様に……
方向を間違えない様に……
真っ直ぐ転生の門へと飛び進む為の道標
行け……
そうだ……
真っ直ぐ…… その先に転生の門だ
もう直ぐ……
通り抜けろ……
そして……
2人で幸せに生きろよ
彼等の魂は転生の門を抜け、この世界から気配が消えた
ムーンとアースの気配が、この世界から…… 消えた
コレは消滅では無い
転生の門をくぐった消え方だ
僕には解る
そして、安堵した
だが即座に訪れる不安
彼等ですらあの状態だ
レシア……
レシアはどこだ!?
僕は広くも無い集落を走り回る
その時、倒壊した家屋から這い出して来た老人
ポポンだった
僕は駆け寄り、その体を起こして言った
【ポポン! コレはどういう事だ! 何が起きた!?】
「何が起きたのか…… 儂にも…… ただ突然…… 誰かの悲鳴と共に爆音が……」
彼は申し訳無さそうに言葉を選ぶ
【爆音だと!? 家が崩れた時の音か!?】
「いえ…… そういった物では無く…… 衝突音の様な……」
【衝突音!?】
「はい…… そして…… 申し訳ござません…… レシア様が……」
ゾクリと背中に悪寒が走る
【レシアは…… レシアはどこだ!】
「多分…… 逃げながら…… 裏山の方かと……」
僕は裏山に顔を向ける
多少、樹木は倒れて居るものの火災等は見受けられない
僕はゆっくり老人の体を地に横たわらせた
【ポポン、無理はするな…… そのままココに居ろ】
「すみませぬ……」
【気にするな…… 僕は行く】
「お気を…… 付けて……」
僕は走った
裏山に……
山の中に入る直前の事だ
山道の入り口付近に倒れた人影
灰色の体躯
大きさはヒトの大人と変わらない体長
衣服を纏わぬ女性の背中
だが、ヒトとは違う
その背中には体色と同じ、灰色の翼が生えていた
コレは……
形が違えどもアノ日の魔物、以前、この山で子供達を襲った奴にどこか似ている
そう思った
僕は更に近付く
その魔物の横に立った
後頭部へ異様に飛び出た突起物
その部分だけでも見覚えがある
ムゥムゥがレシアに譲った【闇断ち】の刃に間違いない
お前が守ってくれたのか?
そう心で問い掛け、腰を下ろす次の瞬間、目に入ったモノ
倒れた魔物、その下敷きになった者の手……
この手は……




