28話 コートとリノン
レシアは一頻りの質問攻めを笑顔で答え、そして会話に一時の間が空いた時だった
僕に声を掛ける彼女
「そういえば、ノア様!」
【なんだ?】
「今度、宮殿に行ってみたいって友達が居るの! 呼んでもいい?」
【構わんが…… オレンジ・ホームの子か?】
レシアは笑顔で頷いた
「そう! 仲良くしてくれる友達でね、コートとリノンって子なの♪ 2人とも昔ノア様が助けてくれたんだよ! 覚えてる?」
【あの奇妙な岩の魔物の際か? あまりしっかりとは覚えてないけど…… 木の実拾いに行った子供だとは検討がつくよ】
「そっか…… でも、まぁ良いや! でね、2人は今度結婚するんだ♪」
【は!? 同じ位の歳だろ!? てことは…… 16!? 早くねーか!?】
「そう? でも大丈夫じゃ無い?」
【いや…… まぁ…… とやかく言うつもりは無いが……】
「うん! でさ、あの日の御礼と新婚旅行も兼ねて来たいんだって♪」
いや……
それ……
新婚旅行のついでに御礼なんじゃ無いか?
ま、良いケドよ……
【とりあえず解った…… 好きな時に来させろよ♪ 後でムゥムゥにも伝えててくれ♪ じゃ無いと中に入れて貰えんからな】
「解った♪」
彼女は満足気な表情を浮かべた
間もなく夕食の準備が整ったとの連絡が入り、僕は神達を連れてダイニングルームへと歩を進める
楽しい時間はあっという間だ
星の成長過程でどの様な事があったのか
今抱える問題は何なのか
それでも星の民達が幸せに進化を続けている話などを皆が話し出す
いつもよりも過ぎゆく時間の速さに圧倒されつつも、僕達はしばしの団欒を楽しんだ
ただ、その中でも時折笑顔を消す者を僕は見逃さない
やはりプルートゥだった
まだヒトとの婚姻に納得していないのか、それとも自分の婚姻話を蹴られた事に不服なのか
後に、この世界……
カタストロフィを訪れる者達、特に【泉】の際だが、プルートゥが反旗を翻す事になるとは、この時点の僕では思わなかった
それもそのはず
無闇に疑わない事が何より大事だと知ってしまったからだ
アルトロンを信じられなかった僕が、後にアルトロンを信じた
僕が創った神達を、僕が信じ無いなんて選択肢は最初から消えた
だから、信じていた
それでもカタストロフィが出来た頃に淡いビジョンで見た世界
美しいこの世界が荒廃するモノだった
過去に見た、その映像
僕は自我が生まれた民衆の、自己を尊重させる為の戦が未来で始まると考えていた
だからこそ、この宮殿の侍女達には戦い方を教えていった
当初から仕える何事にも気が利く女性
そして戦闘技術を教えていくと、その分野でもメキメキと成長を遂げた者
ムゥムゥだ
彼女を筆頭に、宮殿に仕える侍女達を大事の際には事態の収拾する為の部隊として作り上げる
ある程度まで僕が関わると、その後の隊の育成はムゥムゥに任せる
彼女の部隊強化は実に斬新な物だった
一同に強くなる必要は無い
特に伸びる分野
力を持つ者ならば、力を……
速さを持つ者ならば、速さを……
器用な者なら、器用さを極限まで昇華させる
苦手な分野を、全て得意と特技で補う
僕には考えつかなかった育成だ
彼女の采配もあって外界には知る事の無い、秘密部隊が生まれた
念の為さ
ただの念押し
優しく育ったカタストロフィにその様な事は起きなかった
じゃあ、なぜ…… あんな映像を……
そう思ったが、結論は後世にて判明する事となる
念が、念では無くなった戦争
あの映像は夢では無い
現実だ
僕は、あの時に予知をしていたのだろう
今はもう、過去になってしまったあの戦いを、な……
しばらくしたある日の事
宮殿に2人の男女が姿を見せる
どことなく懐かしい感じがする者達
オレンジ・ホームからやって来たコートとリノンだった
「ノア様! ご機嫌麗しく♪」
そう2人は述べると膝を付いて伏礼を見せた
【おいおい! そこまで畏まるなよ…… いいから立てって♪】
「よ、よろしいので……?」
伏礼のまま、顔だけ上げた2人には不安が見える
そんな彼等に僕は笑った
【構わないさ! レシアから聞いてるよ? とても仲良くしてくれているそうじゃ無いか♪ 僕としても嬉しい限りだからね】
同じ伏せた姿のまま顔を見合わせるコートとリノンは笑顔を見せた
可能な場所を可能な限りではあるが、僕が宮殿内を案内する
大きな宮殿だ
見る所は尽きない
中庭に連れていくと花壇に広がり満開と咲き誇る花々
中央には噴水も爽やかさを運ぶ
そんな外界では見ることの出来ない光景に、ほころんだ顔で2人はお互いの顔を見ていた
こんな感じに……
レシアも幸せになれば良いけどな
そんな事を不意に思う
焦らなくても良い
彼女は彼女なりに人生と向き合って居る
だから僕は、僕なりに幸せを分かち合える世界
そんな場所を創るのが使命なのだろう
僕の隣で幸せそうな顔を向け合う2人のように……
こんな笑顔が絶えぬ世界を創り続けていこう……
「ノア様ぁぁーー!!」
宮殿内を更に案内していた僕へと掛けられた呼び声
その方向に目を向けるとリンリンが走って来ていた
【リンリンか? どうした?】
「ムゥムゥ様がお探しです! って、アレ!?」
僕の隣を歩く者達に目を丸くしたリンリン
「リンちゃーーん♪」
「おー!! リンリン♪」
2人も呼応するかの様に声を上げる
「元気そうで何よりじゃ無いか♪」
「うんうん! コートちゃんも元気そうね♪ 今度結婚するんだって!?」
「そそ! コイツとな♪」
そう言ったコートはリノンにクイッと親指を向けた
「コイツって何!? はい、結婚破棄でーーす!」
膨れっ面を見せるリノンは、そのままそっぽを向く
「ウソ! 冗談だって! ゴメン、ゴメン!!」
「許しませーーーん」
失言を口にし、両手を合わせ許しを懇願するコートに焦りの色が見える
巧くリノンに使われそうだな……
「まぁまぁ! 許してあげなよー♪」
そうフォローを入れたのはリンリン
「リンちゃんがそう言うなら…… コート! リンちゃんに感謝しな♪」
「リンリーーーン…… ありがとー♪」
ペコペコと何度も頭を女性達に向けるコート
懐かしいやりとりなのかも知れない
彼等3人は楽しそうに笑っていた
僕が笑顔のリンリンへと声を掛ける
【なぁ、リンリン】
「はい?」
【2人の案内は任せるわ♪ 積もる話もあるだろうからな!】
「でも……」
【いいから♪ 僕はムゥムゥの所へ行く…… だから2人をエスコートしな! ムゥムゥから何か言われたら、僕からの指示だと言え♪】
リンリンは不安な顔を僕に、そして同郷の2人へ交互に向ける
コートとリノンは僕へ深く頭を下げた
「ノア様、ありがとうございます♪ じゃあ2人共こっちに! 案内するね♪」
そう言ってワイワイと歩き去って行った
リンリンも頑張って居るからな……
この位の息抜きは必要だろう
僕は予定通りにムゥムゥの元へと歩き出す
そして……
彼女の元に着いた僕は愕然とした
コレが……
呼ばれた理由か……
シュンと萎らしく項垂れるニコ
その足元には無残に砕け散った皿、そしてグラス……
更には調理器具すらも原型を留めて居なかった
修理、か……
やっぱり……
彼等を案内してたほうが楽だったな……




