19話 ティラノ・クラウン
真夜中
最初こそ眠そうな表情を見せていたレシアが笑顔で話す
僕も、うんうんと相槌を送る
楽しい孫との時間が流れた
ふと、僕はレシアへと問い掛けた
【そういえばレシア…… 姿が見えなくなったらオレンジ・ホームの皆が心配するぞ?】
彼女は笑顔を見せる
「大丈夫だよ♪ 書き置きしてきたもん!」
【か、書き置き……】
なんて用意周到な……
【ま、まぁ…… じゃ、今朝にはこの宮殿に向かったのか?】
「向かってきたのは少し前♪ ルビーのゲートをくぐってチョイチョイだよ!」
【お前…… オレンジ・ホームに行ってから行動力が増したな……】
良いのか、悪いのか……
いや、神としてそれなりの行動力は必要だろう
この場合はやはり成長したとも思う
そんな会話の中
彼女は《あ!》っと表情を変えた
【どうした?】
「そういえば今は夜だ! ノア様、こっち来て!」
そう言い、ベッドから跳ね起きたと思われた瞬間、僕の手を引き部屋を出る
タタタと……
カツカツと……
そんな僕達の足音を暗い通路に響かせ向かった先は……
レシアの部屋だった
【どうした? 忘れ物か?】
僕が彼女に問い掛けた
「んーーん!」
彼女は首を振る
そしてそのまま部屋の奥
最奥に在る窓に駆け寄る
そして、僕に笑顔を向けた
【ん?】
何がしたいのだ?
僕が覗き込むレシアの表情は明るい
そして、人差し指を口にあてた
静かにしろってか?
僕は頷く
彼女も頷いた時だった
窓の外に、口にあてていた指を向けた
促されるかのように、僕の視線をそちらに向ける
あ……
そういう事か……
レシアはコレを見るのが好きだと言っていたもんな……
窓の外には夜空が広がっていた
雲は無い
僕の創ったコノ世界に天候の変化は無い
だから雲は存在しない
そして、その美しき夜空の下
レシアの部屋の真下には宮殿中庭が広がる
コレを見せたかったのか……
その中庭に女性の姿があった
見慣れた侍女
その人物が引っ切り無しに剣を振る
澄んだ夜空に静かに飛び散る汗
ただ我武者羅に剣を振る
耳を澄ませば聞こえる声
(ノアさの為に…… 98988…… ノアさの為に…… 98989…… ノアさの為に…… 98990……)
何度も剣を振り
何度も呟いては夜空に沁み入る
(ニコも…… 99801…… 強く…… 99802…… ならなきゃ…… 99803……)
そう彼女は口にしながら剣を振った
縦に振り下ろす剣
それを時折左右に薙ぎ
そして連撃を行う
ブォブォブォブォブォブォブォブォン……
ブォブォブォブォブォブォブォブォブォン……
そんな重い風斬り音を奏でては、ニコは切っ先に目を向けていた
静かにその姿を眺めていた僕は空に目を移す
そして思った
大した奴だよ、お前は……
ブォブォブォブォブォブォブォブォブォン……
ブォブォブォブォブォブォブォブォブォン……
とても心地の良い音色
だが、不意に違和感を持つ
ん?
なんだ……
振っているのは剣じゃ無いのか?
ただの剣に、あそこまで重い風斬り音が出せるのか……!?
僕は目を凝らした
ニコの手元を凝視する
アレは何だ!?
ソコに在ったのは槍だった
鉄の槍
ソレを30本……
いや、それ以上か!?
何だあの太さは!?
それはレイジを……
レイジの練習方法を思い出す光景
10数本も太い枝を括り付けた剣
それに似ていた
いや、レベルが違う……
鉄の槍を3、40本だと!?
ニコ……
お前……
僕の脳裏にビジョンが流れる
ある、剣の存在が過ぎった
今は倉庫に厳重に仕舞っている豪剣
忌まわしの剣
僕が1年前に創ったモノだ
剣の全長、約8メートル
幅約60センチ
厚さ約40センチ
その本来有り得ぬ豪剣、忌まわしの剣に名を付けていた
《ティラノ・クラウン》
そんな名の剣
僕ですら、もう忘れたい剣の存在
《ティラノ・クラウン》など飾りで付けた名だ
隠し名も有る
《恐竜王殺し》
昔、地球に居た恐竜王、ティラノサウルス
その首を斬り……
その首に乗せる……
頭部の代わりにすげ替える、冠の剣
だからこそ《ティラノ・クラウン》と名を付けた
恐竜王の冠
だが実際はそんな存在理由の剣では無い
その切っ先は紫色に光るラピス造りの姿
とはいえ、切断部がラピスを纏うだけで、重さは尋常では無い
レシアがアルトロンを生み出した際に、万が一、《龍の暴走》を止める為の剣
その為だけに創った
僕が何かしらの理由で倒れても、後世、誰かが世界を救えるように……
僕から離れても形を保っていられるラピス
ラピスラズリを自己に所持していなくても、この剣は存在を消さない特別製だ
以前の僕はソレが必要と考えて居た
勿論、今はそんな事を思っても居ない
だからアルトロンを……
龍達を……
信じられなかった僕の罪として、倉庫に厳重に仕舞っている
破壊力に特化しすぎた為、結果、重くなりすぎた
だから使いこなせる者は居無いと思っていた
まさか……
こんな所に……
ソレを扱える逸材が居るとは……
名は心
もはや隠し名は変えられない
《恐竜王殺し》の名は……
だが、僕の罪として、消すわけにはいかない
もはやアルトロンに向ける事は絶対に無い
だが、世界を救う為には必要かも知れない
いずれ……
あの《ティラノ・クラウン》を……
僕の罪の剣を……
ニコ……
お前が世界を救う剣に変え……
お前が振るう事になるのかな……
なぁ、ニコ……?
僕は目下で懸命に束の巨槍を操る女性に、心でそう、問い掛けた
彼女の動きが剣を振り下ろした姿のまま、ピタリと止まる
そして目を閉じた
残心か……
剣を振る者の心得、そして覚悟
本当に大した奴だ
ゆっくりと瞳を開く彼女は言った
「おしゃ♪ 10万振り終っわりー! 寝よっと♪」
ああ……
ありがとな……
ゆっくり休めよ……
お休み……
良い夢を……




