17話 新しい風
それからはレシアの代わり、というわけでは無いが、僕がリンリンの世話を務める
まあ、大体は教育係も頼んだムゥムゥが専ら携わった
リンリンを宮殿へと連れてきた晩、侍女達を宮殿の一室に集めて少女を紹介する
あれ?
人数が足りない?
ニコがまだ来ていない様子だった
全く……
せっかく同じ集落の同朋が来たと云うのに……
僕は侍女達を見回す
笑顔を見せる者も居れば、涙を流す者も居る
少女は不安そうに僕を見た
皆が笑顔なら解る
だが、涙を見せられれば不安もあるだろう
僕は小声でリンリンに告げた
【皆、レシアが大好きでね…… 同じ年頃の君を見ると思い出すのさ…… しかも今日の今だからね】
「そっか…… レシアちゃん……」
少女は少し陰りのある表情
【うん、まだ皆の整理がつかないからさ…… 解ってあげてくれ…… 歓迎してない訳じゃ無いんだ】
「はい……」
その時だった
ドタバタと、この部屋に隣接する通路から走る音が聞こえた
段々近付く駆ける音
そしてこの部屋の前までその音が聞こえたと思われた瞬間、通り過ぎたかの様に足音が遠退く
ピタリとその音が途絶えたかと思われた時、またその足音が近付いてきた
ズバァァァァンンン!!
そんな破壊音にも似た音色を轟かせながら部屋の戸が開く
そんなニコの第一声
「と、通り過ぎちゃった!!」
ええ、でしょうね……
【遅ぇーぞ、ニコ!!】
僕は彼女に怒鳴りつけた
「ごめーーーん!!」
【だから、ごめんじゃ無い! すみませんだろ…… ったく……】
ヤレヤレと僕は肩を落とす
本当に礼儀がなっていない女だ
【今日こそはちゃんと言い直せよ!】
「あ! リンちゃんやーー♪」
【だから話を聞けって……】
ニコは笑顔でリンリンの元に駆け寄る
そして少女の手を取った
「ニコちゃん♪ 無事だったんだね!」
そんな会話で両者は部屋中をピョンピョンと跳ね回る
僕の隣で、今までどんな経緯があったのか
僕に拾われた事
楽しく毎日過ごしていることなどを引っ切りなしに話す2人
はぁ……
いや、まぁ良いさ……
リンリンにとっても気の抜ける相手だろう
今日の所は勘弁しといてやるか……
いや、今日も、か?
なんにせよ紹介が済んだリンリンに目を向けた
【まだまだ解らないこともあるだろう…… この宮殿の事はムゥムゥに任せている♪ だからソコのムゥムゥに聞けば良い】
そう伝え、僕はムゥムゥを指差す
スタスタと歩み寄る彼女はリンリンに向けて一礼し、名を名乗った
「この宮殿の侍女長を仰せつかっております、ムゥムゥと申します♪ 解らない事があればお聞き下さいな♪」
彼女に向けてリンリンは深くお辞儀を見せる
「何も解らないので…… 頑張りますから教えて下さい! ムゥムゥ様!」
突然だった
彼女は口に手を当て、大きく仰け反った
なんだ?
何かに驚いたか?
別段、可笑しいことは言って居ないように思えるが……
反った体をを戻したと思われた時、ムゥムゥは表情を少し堅くする
そして静かに少女へと告げた
「もう一度お言いなさい、リンリン……」
「あ、はい! 頑張ります! ムゥムゥ様!」
「様……」
ん?
なんだ?
「も、もう一度……」
「頑張ります! ムゥムゥ様♪」
ムゥムゥは一度、部屋の天井に目を向けた
そして目を閉じ……
結んだ手を上げ……
その人差し指を立てる
ん?
《1》か?
僕の考えを肯定するムゥムゥの言葉
「もう一度…… お言いなさい」
おいおい……
何回言わせるつもりだよ……
【ムゥムゥ? 頑張りますって言ってるじゃ無いか! その辺にしとけ】
そうフォローを入れたつもりの僕に言葉を掛けたのはリンリンだった
「大丈夫です、ノア様♪」
そう言って、また深くムゥムゥへと頭を垂れた
「えっと…… 誠心誠意…… 頑張ります! 色々教えて下さい、ムゥムゥ様!!」
「可愛い娘……♪」
そう呟いた彼女の顔は紅潮していた……
大丈夫か?
ムゥムゥに預けて……
少し不安になってきた……
少女……?
少女か!?
少女好きなのか、ムゥムゥ!?
いや、まさかな……
そんな事を思う中、ムゥムゥが僕へと声を掛けた
「まだまだ解らぬ事も多いかと思われますので、私の部屋にリンリンの場所を作りますね、ノア様?」
【ん? んーー…… んーーーー…… まあ…… うん…… 頼むわ……】
頼んで良かったのか!?
頼んで間違いは無いのか!?
僕はとんでもないミスをしてしまったのでは無いのか!?
下手したらリンリンの身が危なくないか!?
マズイ……
マズイぞ、僕……
了承しちまったぞ……?
今から訂正……
いや、それも違和感有るよな……
さて、参った……
何がベストだ!?
軽く頭を抱える僕
とりあえず、その場は解散とし、僕は部屋に残った
今後の事を考える
僕はポポン長老からリンリンを頼まれてるのに……
スタスタと侍女達の退室する足音
その最中も侍女達はリンリンに優しく声を掛けながら笑顔でこの部屋を後にした
そして最後にリンリンの肩に手を置き、歩みを進めるムゥムゥの姿を見る
彼女は少女に告げていた
「リンリン、これからは…… 先程のように《様》をお付けなさい♪」
「はい! ムゥムゥ様♪」
「可愛い娘……♪」
あ……
そっちね?
《様》を付けられる事に悦楽を感じてた訳か……
焦らせんなよ…… まったく……
朝だった
夜が明けたばかりの早朝
何故だろう……
僕はいつもより、遙かに早い目覚めに驚く
夢はあまり見ない僕が見た、久方ぶりの夢
レシア
彼女を手放す事に不安があるのだろうか?
まさかな……
彼女の成長を望んでいるのは僕自身だ
次にレシアを見る時には、成長した彼女が見れる
そんな小さな幸せをくれるはずだ
折角の早起きだ
僕は宮殿内を散歩する事にした
自室を出て背伸びをする
小鳥の囀る声
眩しい光
それを感じては、満たされた何かに酔いしれる
スタスタと歩みを進めた
通路を進むと声が聞こえる
「ムゥムゥ様! 朝ですよ!!」
そう聞こえた声はリンリンか?
ああ、ムゥムゥの部屋がこの辺だったな……
更に近付くとガサガサと激しい音がする
揉み起こしに入ったようだ……
「もう少しぃ…… 寝させてぇ……」
微かに聞こえる声はそう言っていた
「解りました! では指示を下さい♪」
「んーーー…… ではぁ…… リンデロイの準備をぉ…… 手伝って来てぇ……」
「リンデロイ…… 様?」
「厨房ですぅ…… コック長ぉ…… 部屋を出てぇ…… 左ぃ…… そのぉ…… 突き当たりぃ…… の部屋ぁ……」
「コック長のリンデロイ様ですね? 解りました♪」
「よろしく…… ねぇ…… クゥ……」
早起きは何とかの得って言葉をアース……
いや、地球か?
その辺で聞いた気がする
ムゥムゥの弱点が寝起きの悪さだとは……
これは確かに得した♪
などと思った時だった
ズバン!!!
もの凄い音で目の前の部屋、その扉が開く!?
中から出て来たのはメイド姿のリンリンだった
彼女の目が、僕の姿を捉えた
「あ! ノア様♪ お早いんですね! おはようごさいます!!」
そう言って深くお辞儀を見せる
【ああ、リンリン♪ おはよう! 今日の早起きは、たまたまさ♪】
「そうなんですね♪ あ! 厨房に行かないと! では失礼します♪」
また深く頭を垂れると、颯爽と厨房側に姿を消した
レシアは6歳
そんな彼女と変わらない年頃の、元気な幼女だ♪
そして周りに幸せを与えられる良い子のようだ
こりゃ宮殿内に新しい風が吹くかもな……




