12話 沸騰
民達の準備してくれた馳走に箸を伸ばした時だった
「きゃーーー!!!!」
突然の悲鳴にその手を止める
少し遠くから聞こえた悲鳴
誰だ!?
レシア!?
いや、レシアじゃ無い!!
集落の子供か!!
僕は家の外に走った
民家から外に出て辺りを見回す
子供達は……
集落裏手の山だと言っていた!
顔を向ける
そこには山が広がる
さほども大きくない山
その中腹の樹が1本、高く伸びていた
いや……
動いた!
動いただと!?
樹がか!?
揺れている!?
何が起きている!?
僕は手を握った
掌を広げると、そこには紅い穴が開く
ルビーのゲート
それを手に創る
だが背後から声を掛けられた
「名無しさん! 今の声は!?」
その声にビクリと揺れた僕は手を閉じた
人前でルビーを使うわけにはいかない……
【解らない…… ただ……】
何かが起きている
それだけは間違いない
今は一刻を争う
それも解って居る!
その時、ゆらりゆらりと僕の前に力無く歩く女性
そのままズタンと膝を地に落とす
そして、へたり込んだ
ワナワナと震える口に手を当て、彼女は言った
「アノ声は…… アノ悲鳴は…… うちの子!! リンリン!? リンリィイィイイィィィィィィィィンンンン!!!!」
リンリン!?
集落の少女か!
チィッ!!
ルビーのゲートも使えずどうしろと!?
僕は腰を低く構える
とにかく走るしか無い!!
そう思った時には一歩目を踏み込んでいた
後に続く集落民
それを振り切るかのように走った
この足がもっと速く動けば……
この歩幅がもっと広く取れれば……
感じれば解る
常人には有り得ない速さ
僕はルビーを纏った
はち切れんばかりの筋力
足の血管が数本弾ける
紫色の血を流し、それでもまだ僕は走りを止めない
山に入る
山道を走る
砂利に足を取られ
時折、蹌踉け
曲がりくねった道をひたすら走る
人が見えた
子供達だ!
そして……
アレは何だ!?
人!?
イヤ!
違う!
体が大きすぎる!
3メートルを超す巨体
全身石に覆われたかのような灰色の体躯
ゴツゴツとし、盛り上がった人型
だがどう見ても岩が繋ぎ合わされたかの様にしか見えない
そのヒトとは思えぬ魔物!?
それが樹を振りかざしていた
その魔物の手前には3人の子供
へたり込む少女
あれがリンリンか!?
リンリンらしき少女の隣にはレシア
2人の少女の前にはレイジが枝を構える
2人を守ろうとしている!?
その3人から少し後ろに下がった場所に数名の子供達
魔物が……
魔物の持つ樹が……
子供達に振り下ろされた!!
無理だ
間に合わ無い!!
いや!
間に合わせる!!
何としても!!!
僕は手を閉じた
そして開く
紅き穴に僕は体を包ませる
そしてソコを抜けた
空を見る
何かが来る!
葉が見える!
枝が見える!!
幹が見える!!!
樹が見える!!!!
隣には魔物が見える!!!!!
ズガン!!
僕は振り下ろされた枝を左手で止めた
僕の、ルビーのゲート
その出口を魔物とレイジの間に開けた
間に合った!!
僕はレイジを見た
両手で持つ木の枝を僕に向けている
何が起きたのかと目を丸くしている
大丈夫!!
僕は、へたり込む少女を見る
同じ顔だ!
大丈夫!
僕はレシアを見る
レシアは……
レシアが泣いている!?
怪我でもしたか!?
いや、それらしき傷は無い!!
何故だ!?
何故泣いている!?
手だ
手が少し……
紫色に光っている!?
ラピスで子供達を救おうとしたのか!?
僕か……
僕が村に入る直前で……
力を見せてはいけないと止めたからか!?
だから救えなかったのか!?
僕の言い付けを優先した為か!?
くそッ!!!
【テメェ……】
沸騰する
【僕のレシアを……】
心が
【許さねぇ……】
魂が沸騰する
【消え失せろやぁーー!!!!】
僕は受け止めた樹にルビーを流した
ズバン!!
そんな音を上げ、大木は消失したのを見計らった時、魔物の体に両手を付けた
力を流す
紅き破壊の力
蒼き再生の力
混ぜ合わせる
コイツの中で
その力は終焉
全ての終わり
僕は
背後に聞こえた足音へ見向きもせずに放った
紫色の光が、魔物の体内から姿を見せる
魔物の全身を覆った時、一瞬大きさを止めたソノ、ソレは、次の瞬間……
大きさを縮めた……
そこにはモウ、魔物の姿は無かった……
僕は魔物を消し去った場に立ち尽くして居た
集落民の走り寄る音がすぐ後ろにまで聞こえる
そして、その足音がピタリと止んだ
沈黙
その沈黙を破ったのはレイジだった
「な、名無しさん……?」
その声掛けには背中で答えた
【なんだい?】
と、質素に……
次いで話し掛けて来たのは大人だった
「今のは……」
そこまで言って、その大人……
男性と思われる声は口をつぐむ
【アノ魔物ですか……? 解りません……】
そう僕は答える
「いや、ソレも…… なんだけどね……」
【ん?】
そう言葉を出した僕は、振り向いた
後悔だ
いや、後悔では無い
後悔はしていない
だが、後悔はした
子供達を救えたのが唯一の救い
でも、ラピスを使ってしまったのは……
やはり、後悔に値する
彼らは、こぞって僕を見ていた
恐怖
その表情で
僕を見ていた
「名無しさん…… アンタ…… その力…… その足、紫色の血液…… アンタも今の得体の知れないモノの……」
そう誰かが言った
そうだよな……
自分では理解できないモノを見せ付けられては……
そうなるよな……
もうダメだ……
レシアはココには置けない……
そう思った
その時だ
僕と民の間に一人の少女が割って入る
両の手を大きく広げ、僕をかばうかの様に、ソコに居た
レシアだった
「違う!! ノア様は私達を助けてくれたの!! ノア様は悪い人じゃ無い!! 悪い人じゃ無い! 悪い人じゃ無い!!!」
そう何度も僕達の間で連呼する
この子のこんな表情を見たことが無い
必死の表情
僕はレシアの肩に手を置いた
ココから離れるしか無い
集落民に視線を向ける
彼らはそれぞれが、それぞれの顔を伺うように見回していた
その姿だけで充分だ
僕達が有り得ない人間だということが痛いほど、身に沁みた




