10話 大丈夫
僕の決定に安心し、表情を和らげた2人が席を立ち上がる
ソレを僕は遮った
【待て、座れ】
キョトンとした目を僕、そして相方に向けてまた、席に着く2人
「どうかなさいました?」
そうアースが本題の口火を切らせた
【ああ…… 実はな…… レシアをこの城から出そうと思う】
目の前の2人は驚きの表情へと変えた
そしてムーンが口を開いた
「レシアが何か問題でも起こしましたか!?」
【まあ、待てムーン…… 話は最後まで聞けよ…… 見聞の為さ…… あの子は優しい、そして力も持つ…… 僕はいずれレシアに世界を任せようと思う】
「それは…… 神の後継者…… と、いうことに……?」
【その通りだ】
「それは…… 光栄至極ですが…… なぜ外界に?」
【うん、城の中に居ただけでは理想だけが歩き出す…… 外で…… 民に接することによって見えてくる現実は、彼女にとって必要不可欠だ】
「それは…… そうですが……」
【ムーン…… 理想だけでは世界が完成し無いぞ? アースと2人で地球を創ってるんだ…… その位は解るだろ?】
「はい…… しかし……」
【何だ? 不服か?】
「いえ、ただ……」
そう口ごもるとムーンは言葉を選ぶかのように少し視線を下げた
そして少々の沈黙の後、奴は言った
「大丈夫…… なのでしょうか?」
ほう……
巧い言葉を選んだものだ
《何が》大丈夫か、では無く、《大丈夫か?》と聞くか、お前は……
《この》不安は大丈夫か?
という意味では無い
《全てにおいて問題は無いか》と全体を指した質問……
問題がある点が有るなら全部話せ、って事かよ……
良い父親に成ったものだ
嬉しく思うぞ、ムーン……
【大丈夫だ、僕は何度もその集落を訪れた…… 温かい集落だよ、あそこは♪】
僕の目をジッと見るムーン
そしてアースもまた、同じ様に僕の目
その奥を刺すかのように視線を強く向ける
「ノア様が…… そう決断されたので有れば…… それが最善なのでしょう…… 解りました…… よろしくお願いします……」
【ああ♪ 心配するな!】
「はい……」
【まぁ、だから次にカタストロフィに戻る際には、その集落に立ち寄ると良い♪ 大河カタストロフィの下流…… 最西端に位置するオレンジホームという集落だ】
「承知しました」
【オレンジホームだぞ? 二度言わないから集落の名前、忘れんなよ】
そう言った僕は一呼吸置いて言葉を繋げた
【それにな、その集落には優秀な子供が居る…… レイジと云う名の子供だ♪ いずれはレシアの婿に欲しいと思っている】
ガダァァン!!!
「ちょ!! 待った!!! ノア様、幾ら何でも、それは早いでしょ!!! レシアはまだ6歳ですよ!?」
勢い良く立ち上がった瞬間に椅子を倒すムーン
その後に言葉は無く、パクパクと口を動かしながら意味の有無が無さそうな手振りを見せた
動揺する気持ちは解らんでもない
【まぁ落ち着け…… 僕もな…… そんな時が来るとは思ってなかったんだけどな…… レシアは人並みの幸せを与えてあげたいと思ってるんだ】
「いや、だとしても…… まだ子供ですよ!?」
【だから、だとしても、なんだよ……】
「どういう意味です!?」
【レシアがな…… 僕の嫁になりたいと言ってるんだわ…… でも、そりゃ無理だろ? だから婿候補も勉学の場所ついでに探したんだ♪】
「そんなぁ……」
【まぁまぁ…… いずれ慣れるさ♪】
「はぁ……」
そう溜め息をつくムーンは力無く立ち上がり、蹌踉ける
それを支えるアース
2人が一礼をし、部屋から出る間際、耳に届いた会話
「そんなぁ……」
「どうしたの? さっきから《そんなぁ》ばっかり……」
「俺だってまだ言われた事無いんだぞ……?」
「何がよ、ムーン?」
「お父様のお嫁に成るって…… ノア様が先に言われるとか…… 何て事だ……」
お前の落胆はそっちかい!!!
ある日の昼、宮殿の中庭に僕は居た
そして隣にはレシアが居る
僕はレシアの手を取った
周りには宮殿侍女達が立ち並ぶ
そして一同に涙を見せていた
いつもチャキチャキと仕事をこなすムゥムゥまでもが瞳から雫を落とす
この宮殿の姫であるレシア
それを失うと感じているのだろうか
皆にとって妹の様な存在だったのかも知れない
実に……
本当に幸せな環境だったのだろうと、つくづく思う
僕の飛び立つ間際、ニコが駆け寄り言った
「レシアちゃ…… またね♪」
「うん、ニコちゃんもね!」
2人は笑顔を見せる
次いで話し掛けたのはムゥムゥだった
「レシア様…… お体にはお気を付けて…… コレはささやかながら……」
そう言って布に巻いた何かを手渡した
「コレは何?」
受け取った物とムゥムゥを交互に見るレシアが問い掛ける
「コレはですね……」
ムゥムゥがスラリと伸びた指を巻いた布に絡ませた
そしてヒラリ、ヒラリと布を開く
ソレを見たレシアが驚きと喜びの表情を見せた
「コレって!? いいの!?」
「ええ♪ 私の愛刀《闇断ち》…… 有事の際には御身を護ってくれる事でしょう♪」
開かれた布、ソコに在ったのはムゥムゥが有事、つまり戦いの際に使用する武具の姿があった
ダガーに似た武器
彼女は【苦無】と言っていた
ナイフよりも少々長い両刃
そんな武器
そしてそれは両手に一本ずつ持つものであり、大切な苦無、その分け身を譲るという心境はいかほどの物か……
あまり表情に出さないムゥムゥでも、レシアを大切にしてくれて居たのだと今尚ながら感じずにはいられない
「このクナイは私の持つ《魔断ち》と対に生まれた姉妹刀…… レシア様の身に何か有れば、この《闇断ち》が教えてくれます♪」
「そんな大切な物を…… いいの?」
ムゥムゥは目を優しく細め、レシアを見ていた
「この世に御身ほど大切な方はおりません♪」
そう告げる
【良かったな、レシア♪】
僕はそうレシアに言った
「うん♪」
彼女は笑顔で応えた




