106話 決着
どうしたというのだ…… 僕の体は?
巧く動かない
後どれ位逃げれば良い?
まだ12分しか経ってないのか……
残りは58分…… いや、48分か?
なんだ……
頭も回らなくなっちまった
おかしいな……
僕の体は壊れてしまったのか
逃げ回り、そこまで思考が巡った時だった
一気に抜けた体の力
離れる意識
高速移動したまま放物線を描いて地上と平行に……
やがては大地に少しずつ角度を変えて落ちて行く
うっすらとした意識の中、僕の体は頭部から風を切り、独楽の様にクルクル回った
体が動かない
頭から真っ逆さまに墜ちて居る様だ
「ノア様!」
足元に向ける虚ろな瞳
ソコには飛んできた軌跡
紅い穴が空き、手を向けたムゥムゥが現れたが、遠ざかる
紫色の穴が空き、手を向けたリンリンが菱形の飾り紐を僕に投げるが届かない
「リンリン! もっと先にゲートも飾り紐も!」
ムゥムゥの声が聞こえる
「やってます! でも墜ちるの早過ぎて!」
リンリンの声も聞こえる
「リンリン何とかなさい! 出入り口のゲート座標を合わせるよりも墜ちるのが速い! 貴方の飾り紐が頼りなのです!」
「解ってます! だけど私の紐では風圧に負けちゃう!!」
だよな……
僕だって出したことの無い速さで飛んだんだから
いくら放物線とはいえ、間もなく地上に墜ちるだろう
体が動かないから受け身も取れない
流石に終わったっぽいな……
クダラナイ死に様だ
鬼ごっこで死ぬとか……
3人の内の誰かを選んでればコウは成らなかったのかな?
だとしたら優柔不断だったからこその罰かも知れない
そろそろかな?
おお……
一気に地上が近付いてくる……
この速さで叩き付けられたら流石にモウ……
終ワルダロウナ
不様ダ
コレハ、《サヨウナラ》ッテ奴ダナ
そんな最期を決めた僕の瞳が捉えたモノ
足元に向けていた視線
何度も出入りするルビーとラピスのゲート、ムゥムゥとリンリン
その遥か先から《女性が降ってきた》
体から水色のオーラを迸らせ、僕に向けて一直線に飛ぶ彗星
異様な程、クリアになる感覚
水色の衣を纏う天女にすら見える
そんな彼女は言った
「守る! ニコがノアさを守るんや!」
尋常では無い速さで墜ちる僕の体
それにグングン追いつく彼女
そうか……
ニコは他の2人と違い、ゲートの出入り移動じゃ無い
真っ直ぐ減速の無いスピードで飛んできたから追いつくわけか……
だが僕に向けるニコの手に見えたモノ
無数の切り傷
あまりの速さ
真空で切れているのだろう
ソコから血が流れ、その血が千切れた
もういい
止めろ、ニコ
そんなお前を見たくない
「ノアさを守る為に強くなったんや! 負けん…… こんなんに負てられん!」
なんなんだよ、お前は……
なんでそんなに一生懸命守るんだよ……
僕なら構わない
ココで終わっても良いから
「ノアさ! 手ぇ伸ばして!! 早よう!!!」
良いのか……
伸ばして、良いのか?
あんなに……
僕の為に傷付いた手へ……
「ニコが守るから…… これからもずっと…… ずっとずっと…… 守るからぁぁぁ!!」
ああ……
なんて真っ直ぐな瞳なのだろう
ニコ……
なあ、ニコ
【ニ…… コ……】
もはや地上へ墜ちる事への恐怖は無かったのに……
僕は彼女へ手を向けていた
風で切れた手、顔……
そんな中で、ニコは微笑んだ
そして一気に掴んだ僕の手
「ティラノさ! 減速は無理! 急転換、空に飛んでやぁぁぁ!!」
急激に体へ掛かる負荷
ゴヒュオンと地上すれすれを鳴らす風斬り音と、舞う砂塵
僕の体は大きく揺られながら空へと運ばれた
空に舞い戻った僕とニコ
ホッとした彼女の顔は初めて見た気がする
彼女の手に握られた僕の手
ぶらりと揺られていた体を引き上げるニコは、乗って居た巨剣ティラノ・クラウンの腹へ僕を横たわらせた
直後、僕の両隣に開く紅と紫色のゲート
ソコからムゥムゥとリンリンが現れ、リンリンが自分の足元とムゥムゥの足元に浮遊岩を創る
そして心配そうな面持ちで顔を覗き込んだ
【皆…… 心配掛けたな……】
まだ気分も優れず、立ち上がる事も出来なかった為、横たわったまま目だけを3人に向けて感謝の言葉を口にした
「良いのですよ、ノア様…… 何か…… 私達もムキになってしまいスミマセン」
「ごめんなさい、ノア様……」
ムゥムゥの謝罪に次いでリンリンも頭を下げる
僕は精一杯の力で首を振った
【いや、お前達は何も悪くない…… 悪いのは僕だ】
そう言うと2人は涙を浮かべる
泣かせたかった訳では無いのだけど……
でも何故か、優しさを感じる雫に見えた
「とりま、女神の丘に戻らん?」
ニコの提案に2人も頷く
そして僕も賛成だ
4人で鬼ごっこのスタート地点へ向かった
下り立った丘にはレイジとその妻が待っていた
グッタリとした僕をニコはティラノ・クラウンから大地へと横たわらせる
その姿を見るやいなや彼等は駆け寄り心配の言を次々掛けた
あれやこれやと騒ぎ立てる周囲
気分が悪いから正直黙ってて欲しいが、心配してくれているのがよく解る為に言葉へはしない
そんな周囲の騒音の中だった
ニコが僕の顔を覗き込む
そしてポンと両手を叩いた
「あーー! 紫色の唇! コレってアレや! 息ちゃんとしてないからなるヤツやん♪ ニコも何度か空飛んだ時になったんで、口の周りだけ別に風創ってるんよ」
「え!? もしや治せるのですか、ニコ!」
「うんうん、ムゥちゃ♪ こんなんなら簡単やん! 体ん中の空気の割合増やせば良いだけやもん」
「でしたら早く頼みます!」
「あいさー♪」
ニコは目を閉じる
それに呼応するかのように水色の力が輝く
そして、大きく息を吸い込み……
僕の唇へ、彼女の小さく柔らかなソレを重ねた




