105話 過信
その《平たい物体》を見る
有り得ない事を選んだニコへ向けたのは、僕の引き攣った顔だ
【お、お前…… そりゃマズイだろ、色々とよぉ……】
ニコに向け言った呟き
目下に浮いていたムゥムゥとリンリンまでもが目を丸くして固まる
「ダメ? なんで?」
理解不能を示すニコの言動
本当に解ってないのか!?
コレだよ!
コレが怖いんだよ、ニコの考えの浅さが!!
空に浮かぶ彼女
足元に在る《平たい物体》
その物体の腹に乗り、正面からは確かに平たく見える物
ソレは……
巨剣
その剣自体の重さを暴風で相殺し、飛んでいた
【ティラノで特攻とか…… お前は僕を殺したいのか!!?】
「あや? 殺したいんじゃ無くて、結婚したいんだよ?」
【お前のやり方じゃあ僕が串刺しだろうが!!】
「あ! そうだね! エヘヘ♪」
【エヘヘじゃねぇよ!】
「大丈夫、大丈夫♪ 死ぬ前にニコが治すから!」
【ふざけんな! だからって傷付けんのを良しとすんじゃねぇ!】
ヒドい考えを平然と話す女
悪意を感じないから更に厄介だ
「でもさ? ムゥちゃんもリンちゃんも紅い力だっけ? それで移動出来るけど、ニコは出来ないもん…… だからコウするしかないもん!」
【だったらだったで別な方法あるだろうが! 似た乗り物創るとか!】
「ダメだよ! 1番ヒトの動きを止めるのは《怖い》って事だよ? 危険を感じた時に硬直するし♪」
意外と物事を理由持って行動していた事に驚く
ただのドジだと思って居たが、流石はカタストロフィの三強の一人
バトルセンスは大した者といえる
が、危険な女である事は間違い無い
少なくとも今、僕の命が本気で危ない……
怪我してもニコが治すと言っていた
彼女ならヤる、絶対に……
【ちょっと待てよ、ニコ…… 先ずは皆、待て……】
「どうしたの?」
【マジでソレ、死ぬから……】
「大丈夫だよ♪ 擦らせるダケだもん!」
【いや…… さっきは完全に僕の居た場所通り過ぎたから……】
「ノアさなら少しは躱すと思ってたからやんね♪」
躱さなかったら死亡推定時刻はその瞬間になるわけですか……
アンタの考えがもう人の理解を越えてますね……
とはいえ何を言っても止める気は無いのだろう
僕は意を決して力を纏った
嫁決定戦のハズが、命の削り合いになるとは……
鬼ごっこを始めてからどれ程の時間が経ったのだろう?
制限時間は1時間としていたにも関わらず、時を数えてみれば5分程度しか経過して居無かった
おいおい……
なんて様だよ
まだ12分の1しか経ってないとは……
この3名を相手にする競技がこれ程恐ろしいとは思わなんだ
折れそうな心を無理に取り繕う事が出来たのは、ムゥムゥとリンリンの狂気じみた顔、そして僕に巨剣をぶっ刺そうとするニコの笑顔以外に無い
僕の周囲にゲートを空けては跳び回るリンリン
その躱した瞬間を見計らい襲うムゥムゥの腕
そのまた周囲を一気に切り刻もうとする巨剣
避けては飛び、躱しては飛ぶ今まで出したことの無い飛行スピードと、ランダムに動き回る上下左右飛行
とんでも無い風圧と重力が我が身を襲う
それにより、僕は……
後になって《自身を解って居無かった》事に気付いた
クラクラとする脳内
浮いて移動しているにも関わらず、それ以上に流れる意識
軽い嘔吐感
酒酔いにも似た視点の定まらない感覚
ソレこそが誤算
僕は、僕の《力》を過信していた
そして、何より自身の《体》を過信していた
ヒトが生まれる前、土地が在った
土地が生まれたのは星が生まれたから
星が生まれる前には何も無かった
創ったのは僕なんだから当然だ
そう、何も無かった
《空気》が無かった
そして僕には空気が《必要無かった》
長くヒトと同じ生活をする上で、体が空気を欲しているという、僕にとってはある意味退化ともいえる状態を理解していなかった
故に、起きてしまった
体の自由が利かなくなる感覚
極限の鬼ごっこがソウさせた
張り詰めた緊張
激しく脈打つ鼓動
限界を超える使い方をしたピュア・ラピスに体が付いて行かない
その付いて行かない体を無理に酷使したトップスピード
速さ故に摂取制限を掛けられた呼吸
捕まる瞬間、躱す為の息止め
全ての要因が重なって出来たリミットが僕に訪れる
そう……
僕はチアノーゼに陥っていた




