104話 競技開始
僕は一同に目を配り叫ぶ
【決着競技は《鬼ごっこ》だ!】
「鬼ごっこ!?」
「鬼ごっこ!?」
「鬼ごっこって何?」
鬼ごっこを知らない者が居た為、僕はルールを説明した
まぁ、勿論知らなかったのはニコな訳だが、彼女達の競りを平等にするために事細かく話す
ルールは至って簡単
《鬼》と呼ばれる者に鬼以外の者、この場合は《生者》としようか…… が、捕まってはならない
捕まったら《生者》は《鬼》と交代する
だが今回は彼女達にとって成功報酬が用意されている為、本来の物とはルールが異なる
先ず1つ目は彼女達の成功報酬、それは勿論僕の妻になる件
それ故に《鬼役》は3名であり、彼女達がソレ
僕が《生者》で、捕まえた者と生涯を過ごす
2つ目は鬼同士が傷付け合う事や、故意に過剰な妨害をしてはならない
3つ目は制限時間を設ける
時は1時間で、ソレを過ぎれば僕の勝ち
今回の結婚騒動は終結とする
3つ目には彼女達もギャアギャア叫き散らしたが、そもそもこの件自体が流れても良いのか?と言い放った僕の言葉で3名は了承した
ソレこそが僕が謀った最善の逃げ道だった
僕はゆっくりと空に飛ぶ
そして女神の丘を見下ろす
【では…… 用意は良いか?】
目下では3名が頷く
ソレを確認し、僕は告げた
【始めだ!!】
僕は一気にギアを上げたトップスピードで女神の丘上空から離れた
逃げ切ってやる!
そして3者の確認の為に背後を見る
1秒前まで居た場所、ソコには紅い穴が空いていた
は?
アレって……
空いていたのはルビーのゲート
紅き力にだけ許された転送用の穴だ
そしてその場にはムゥムゥが左手を穴に入れたままブラリと浮いていた
「チッ…… 外しましたか……」
初めて聞くムゥムゥの舌打ち
というより、あの女…… とんでもねぇ使い方しやがる!
僕の居る場所をルビーのゲートで繋げ、瞬間移動だと!?
コレじゃスピード出して逃げ切るのは中々に困難
でも逃げるしか無い
捕まる訳にはいかない
僕は向かう先を変えてまた飛び逃げた
上げすぎた速度の為、顔に当たる風が痛い
それでも逃げた
少し前に紅い穴を確認する
またムゥムゥか!?
一気に下降を試みた
が……
ソコにもルビーのゲートだと!?
僕は頭を傾ける
不本意にも向かって行った先には腕
恐怖も加わり更に大きく傾けた頭部と体
すんでのところでムゥムゥの右手を躱した
あ、危ねぇ……
あの女フェイントかましやがった
始まったばかりなのに捕まるなんて不様な真似だけは避けたい
直線飛行は危険だ……
蛇行のが良さそうだな
変則的な飛行に変えると所々に空くルビーのゲートをことごとく回避出来た
コレなら巧く時間を稼げそうだ
蛇行したまま時が過ぎるのを待つ
という願いは即座に掻き消された
僕の向かうハズだった先に2つのゲート
コレは紫色の穴!?
リンリンか!
甘かった……
ムゥムゥだけ注意すれば良いってもんじゃ無い
ラピス・ラズリはルビーアイとサファイア・アイのハイブリッド
どちらの力も持っている
急減速をし、元来た方向へ飛び去ろうとした瞬間だ
向いた先、元来た後方にも紫色の穴、ラピスのゲートが現れる
後方両斜めに2つ、前方に2つ
ソコから現れたのはリンリンかと思ったが、違っていた
姿を見せたのは……
岩!?
どういう事だ……
疑問は直ぐに解決する
真正面に空いた5つめの穴からリンリンが僕に向けて飛んだ
躱す!
そして飛び去ろうとした瞬間だった
僕の目の前にリンリンが居るだと!?
大きく捻った僕の体
そのギリギリをリンリンの両手が風切った
コイツもヤベぇ!
彼女独特の器用さによる戦闘法
両腕に仕込んだ細い紐で空間を自在に跳ね回りやがる!
チィ…… その為の浮遊岩か!
紐で絡めとって移動するとは……
この空間はマズイ!!
一気に上昇し、少し飛んでは下降する
その間にも左右への飛行は欠かさない
3次元を逃げ回らなければ捕まる!!
鬼ごっこが始まって僅かな時間しか経っていない
なのに何だコノ極限の緊張状態は……
というよりも尋常では無いレベルの能力眼使いだ
鬼ごっこを選んだのはミスだった……
これほどまでに精神力が削られるとは!
1対1ならまだしも3対1は無理がある
って、ニコが来てない!?
あの子が簡単に諦めるとは思わないが、状況的には気楽でもある
2人なら何とかなるかも知れない
2人なら何とかなるかも知れない
そんな考えを持った瞬間、ピリッと感じた両隣
右に紅、左に紫色のゲートを確認した刹那、僕もまたルビーのゲートに体を包む
そして即座に上空へ出口を創って移動した
目下に向けた視線
ムゥムゥとリンリンが互いの頭をぶつけ合ったのか、それぞれが顔に手を当て目を回して居た
そして彼女達はその頭上に居る僕へと叫んだ
「卑怯ですよノア様!!」
「そうですよ!」
【おい…… 待てよムゥムゥ、リンリン…… お前達だって同じ事してるだろうが!】
「私達のは良いのです!」
【どういう理屈だよ、そりゃ……】
「私達は捕まえるための技術だし、ノア様は捕まる側でしょ!? 捕まる側の人が別空間に逃げるのはダメですよ! 逃走エリアから出た時点で鬼ごっこが成り立ちませんもん!」
なんて必死克つ、立派な理由だ……
全くもって正論
一瞬でも捕獲される人間が居無くなった時点で競技が成り立た無い
的が無い、目的が無いゲームほどツマラナイものは無いからだ
【わ、解った…… 別空間に逃げるのは今のが最後にするよ……】
僕の応答に彼女達はニンマリと笑った
気持ち悪い笑みだ
というよりもチョット怖い
その時だった
異様な気配を捉えた僕のセンス
恐ろしいまでの強大なオーラ
僕は大きくその場を離れた
直後、ズバヒュン!!
激しい風斬り音が僕の居た位置を通り過ぎた
【な、なんだ…… 今のは……】
巨大翼竜が通った様にも感じる凄まじいオーラと襲う風
一瞬で現れ、次の一瞬で飛び去った
その先からまた何かが来る!?
僕はまた飛び避ける
遠い先から見えたのは巨大翼竜などでは無い
平たい何かに乗った女性
それは…… ニコ!?
僕の居た場所をまたも通り過ぎ、今度はゴヒュッと風を鳴らし急停止を見せた
飛び止まり、彼女だと完全に目視出来た姿
少し先、平たい何かに乗ったニコがその物体に暴風を吹き当て空を飛ぶ
吹き荒れる風を波に見立て、サーフィンでもしているようだ
と、というよりも……
その《平たい物体》の方が問題だった




