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いつか、きっと。  作者: なむ
4/20

雨。

ガラッ


「優、体調大丈夫?」


『うん、1時間休んだら治った』


「そっか、よかったぁ」


教室に戻り、七美たちの元に行くと


席に座って頬杖をつく弘人が見えた


その周りを囲む


クラスの派手な女の子たち


別のクラスの子も何人か来ていて


「ほんとモテるねー笑」


「なんか私たち話しかけるタイミングないもんね笑」


『…』


私はその光景を


見ないようにして窓の外を見た


雲ひとつない青空を見上げて


空が嫌いだと言った弘人


そんな言葉とは正反対に


あんなにも愛しそうに


空を見た弘人


どれが本当の弘人なのか


あの頃はあんなに簡単だったことが


今はもう


わからない


「ねぇ弘人ーそろそろ教えてよっ」


「彼女いるのー?」


「なーいしょ。」


「向こうで何人と付き合ったー?」


「ねぇ弘人ーっ」


「るせぇよ。笑」


『…』


怒ってる…。


少しだけ低くなる弘人のトーン


弘人が


怒ってる。


ガタッ


「えー弘人どこ行くのー?」


そんな小さな変化に気付かない周りの女子達に


「便所~。」


顔だけ作った笑顔を見せて教室を出て行った


「やっぱ佐野みたいな男子の周りにはあぁいうギャルっぽい子とか大人っぽい女子が集まるよねぇ」


「顔いいし、見た目結構派手だもんね。身長高いし」


『…』


「てか優ってほんと佐野に興味ないんだね」


『え?』


「佐野の話ししても全然入ってこないじゃん」


「優には多田がいるもんねぇ」


「いいなー私も彼氏ほしい」


『…笑』


《お前は俺のもんだよ。》


そう言ってキスをした


空っぽの瞳で私を見た


無表情に、笑った弘人。


「あれなに?」


「え?」


席に戻ろうとした七美が窓から校門を指差した


「なんか違う制服の女子がいる」


「ほんとだ」


しばらくして校舎から出てきた


「え、」


『…弘人。』


弘人がその子に歩み寄り


その子は弘人の腕に抱き付いた


周りの女子がその光景を見て騒ぐ


「えーっ!やっぱり彼女いたの?」


「ショックー!」


『…』


なぜだろう…


『…っ』


急に溢れ出した涙


私は涙を見られないように下を見た


変わらないものなんてない


あれから5年たったんだもん…


《受け入れてやってほしい。》


受け入れるって


『…っ…』


どうすればいいの…





「じゃあ、また明日ねっ」


「ばいばーいっ」


『ばいばい。』


放課後


バス停で七美たちと別れて


私は少しして来たバスに乗り込む


『…』


バスに揺られている時間が好き


何も考えなくていい


何も感じずに


ただ、このままどこか遠くへ行けるような…


『…雨、降りそう。』


空には灰色の雲がかかり


段々と薄暗くなっていた


バスを降りて家に向かう帰り道


あの公園のベンチで


『…』


弘人を見つけた。




「やばいっ降ってきた」


『傘持ってないーっ』


小学4年の秋


学校帰りに突然崩れた天気


降り出した雨を避けるようにして弘人と入ったコンビニ


「傘売ってる」


『いくらかな』


「630円だって。」


『私今120円しか持ってない…』


「俺、500円…。」


それからしばらくして


公共料金の支払いにコンビニに来た弘人のお母さんが


大きい傘に二人を入れてくれた


私たちが濡れないように傘を傾けていたおばさんの背中が濡れていたこと


私を家まで送り届けてくれて


弘人と歩いていく後ろ姿を見て知った




『弘人!』


バッ!


『っ…』


公園のベンチ


弘人の手から取り上げた吸いかけのタバコ


「なにしてんだよ」


私を見上げた弘人は


鋭い視線を私に向ける


「…お前、火傷したらどうすんだよ。」


『…』


そんな視線とは裏腹に


私のことを心配する


『…ねぇ、いつから?』


「こんなん、中学ん時から皆やってんだろ。」


『っ…だめだよ弘人っ』


「…」


小さくため息をついて


地面に視線を移す


「るせぇよ。」


『…』


「お前に関係ねぇじゃん。」


『…関係あるようにしてんのはそっちじゃん…』


「は?」


『関わりたくないのに…そうしてんのはそっちじゃんっ』


「…」


《キスしてよ、優。》


《お前は俺のもんだよ。》


グッ…


『っ』


「…」


突然ベンチに座る弘人に腕を引き寄せられ


体勢を崩して弘人に体を支えられた状態で


見つめられる


触れそうで触れない


なのに


逃げ出せない…


『…』


しばらくして


「もうしないから。」


『…』


「…許してよ。」


弘人はぽつりと呟いた。


困ったように小さく笑って


静かに離された体


空を見て


「俺の母親、死んだんだ。」


呟いた。


『っ…嘘。』


ねぇ…


この前みたいに…笑ってよ。


嘘だよって…


「…」


…ねぇ、弘人。


『…っ…』


「母親死んで、しばらく親戚んとこ預けられてたんだけど。」


『…』


「なんか、もういいやってなって。」


そうやって小さく笑う


「周りにすすめられて中一で初めて吸った。別に依存してるわけじゃねぇけど、そこからなんとなく止められなかった。」


おかしくもないのに


「別に、今時こんなん珍しくもねぇだろ。」


笑う…


『…だめだよ…吸わないで。』


「…お前お袋みてぇ。」


そうやって


『…』


色のない声であなたが笑った…


『…雨。』


突然頬に触れた水滴が


少しずつ数を増す


「やべ…降ってきた。」


《やばいっ降ってきた》


『…』


「おいっ何やってんだよ、行くぞ。」


そう言って私の腕を掴んだ弘人


強くなる雨


少し走ったところにあるコンビニ…


「結構濡れたな。」


弘人は温かい紅茶と傘を買う


『…』


《傘売ってる、630円だって》


「ほら。」


今買ったばかりの紅茶を私に手渡して


「冷えただろ。持ってろ。」


濡れた私の頬を手のひらで拭ってくれる


『…』


頬に伝う涙は


「傘、一本しか売ってなかった。」


なんの涙…


『…うん。』


「送る。」


髪から滴り落ちる雨水が涙を隠してくれる


あの頃は買えなかった傘


自分の背中を濡らして傘に入れてくれた弘人のお母さん


家に送り届けてくれた後


弘人の髪をくしゃっと撫でて「帰ろう」と微笑んだ後ろ姿


あの人は


もういない。


「ここだったよな、お前のうち。」


『うん。』


「じゃあな。」


『あ、』


「ん?」


『…ありがと。』


「…おう。」


小さく微笑んだ弘人が


なんだか穏やかで


まるであの頃に戻ったように思えた


その背中を見つめて


離れていかないで欲しいと


『…』


思った。




【H28.2.16】

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