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いつか、きっと。  作者: なむ
3/20

空。

はじめて弘人とキスをした


小学4年の夏。


弘人の家に遊びに行った日


珍しく達也は用事があって遊べなくて


弘人の部屋で二人、かき氷を食べた


私はイチゴ


弘人はメロンのシロップをかける


かき氷のシロップは色と香りが違うだけで味はみんな同じなのに


イチゴも食べたいって言った弘人が


少し照れたように首をかいた後


私に小さくキスをした


窓から吹き込むそよ風がカーテンを揺らす


近くの木で


セミが鳴いていた





『…』


「ねぇ優、聞いてる?」


『え?』


「朝からぼーっとしすぎ。ねぇ佐野くんは?」


『あ…来てないね。』


「転校してきた次の日から休みー?」


「私もっと佐野くんと話したかったのにーっ」


『…』


「そういえば優、多田と喧嘩したの?」


『え、なんで?』


「朝一緒じゃなかったし、今日一回も会いに来てないじゃん」


『別に、毎日一緒にいるわけじゃないよ』


「毎日一緒にいるじゃん笑」


「けどまぁ、優と多田って付き合って長いもんねー。たまには喧嘩もするよねっ」


『だから喧嘩じゃないー。』


今日


珍しく達也は迎えに来なかった。


ガラッ


「こらー席つけ、授業始めるぞ」


『…』


「先週の続きから、」


『すいません。』


「ん?佐々木、どうした」


『体調悪いんで…保健室行ってきていいですか?』


「あぁ、大丈夫か?誰かついて行ってやれ」


『あ、一人で平気です』


「そうか、無理するなよ」


『すいません…』


嘘をついた


『…』


席から見えた


向かい側の校舎の屋上で


空を見上げる


ガチャッ…


『…』


弘人の姿。


「…」


あなたはそっと振り向き


「さぼり?」


ぽつりと呟いた


『さぼりはあんたじゃん。』


「…笑」


ふっと笑った弘人は


また、空に視線を戻す


『何してるの?』


「見てわかんねぇ?空見てんの。」


『なんで?』


「…」


なにも言わない弘人のすぐそばで立ち止まり


『…空、好きなの?』


私も空を見た


「…」


グッ!


『っ』


「…」


突然、腕を強く引かれて


屋上の柵に強く押し付けられた


私を囲うように両手で柵を掴んだ弘人は


「嫌いなんだよ。」


低い声で


『…ぇ。』


無表情に笑った


「…なんも変わってねぇな、お前。」


『…』


ガチャッ


『っ』


突然屋上の扉が開き


「…何してんの、お前ら。」


そこには


『っ…』


達也がいた


「ここでキスしたら、あいつどうするかな。」


『やめて…』


「おい、弘人。」


『…お願いっ…』


「…」


しばらくして


『…っ』


離れた弘人の体


私は


その場に座り込んだ


「優?おいっ」


『っ…』


私の前に駆け寄り


肩に触れて私を見つめる達也


『…』


扉に向かい


歩いていく弘人の背中


「おい、弘人待てよ。まだ話っ」


足を止め


「お前と話すことなんてねぇよ。」


振り向いた弘人は


色をなくしたような瞳で


私たちを見た


『…』


弘人のいなくなった屋上


「二人で…なにやってたの。」


静かで


穏やかな達也の声


『…なにもしてない…』


「…優…頼むから、」


ギュッ…


「…」


『…っ…』


すがるように抱きついた私を


ただ優しく抱きしめてくれる


あなたの優しさが


愛しかった


「…昨日の話しようか。」


《お前のクラスに転校生来たんだよな。今日、その話しようと思って誘った。》


『…』


「…ごめんな。俺、弘人が引っ越した後も、ずっと連絡とってた。」


『っ…』


「弘人さ、お前のこと好きだったじゃん…」


こんなにも簡単に


「…お前も、弘人のことが好きだっただろ。」


あの頃に引き戻される


「もう会えねぇのに、連絡しても優を困らせるだけだからって。あいつほんといつもお前の話ばっかしてた。」


心の奥に残ったものは


今でも消えずに


まるで


『…泣』


間違えて冷たいコーヒーに落としてしまった角砂糖みたいに


「しばらくは俺ら、普通に連絡やりとりしてて。つってもほとんど優の近況報告って感じだったけど。」


混ぜても混ぜても


「けど」


消えずに残る…


「中学入ってしばらくして…なんかあいつ雰囲気変わっちゃって。」


『…』


「…あいつに、彼女できた辺りから。」


『っ…』


わかってる


「つるむ仲間で、人間って変わるだろ。」


彼女がいたことなんて


そんな当たり前のこと…


なのに


どうしてこんなに…


「…優は、5年ぶりだから戸惑う部分もあるかもしれねぇけど。」


私の知っていた弘人には


「受け入れてやってほしい。」


もう会えない


『…』


それを変えたのは


弘人の新しい世界で出会った人たち


弘人が好きになった女の子…


弘人を好きになった女の子…


「…ごめんな…優。」


『…どうして達也が謝るの…』


「…」


『…なんで…もっと怒ってよ…』


「…今日、迎えに行かなくてごめん…」


『達也っ…』


「…」


『…怒っていいんだよ…』


「…」


『私…最低なことしたのに…っ』


「じゃあ…優からキスして?」


『…』


そっと


達也の頬に触れる


指先から伝わる達也のぬくもり


静かに


達也に唇を触れさせた


「…許すよ。」


そうやって


ふわりと


私の大好きな笑顔で笑った


『…好き。』


「知ってる。」


『…大好き…達也…』


抱きしめられて


また


キスをして


そんなふうに


私はあの頃


あなたを好きになった


あなたを


大好きになった


ねぇ


私は知らなかった


私が幸せだと感じている今


傷付いている人がいたということ


心に大きな


痛みを抱えている人がいたということ


私は


知らなかったんだ…




【H28.2.16】

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