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いつか、きっと。  作者: なむ
2/20

あの公園で。

『ねぇ弘人ー。』


「なに?」


『弘人の夢ってなに?』


「夢?急にどうして?」


『今日の宿題に出たの』


「んー…俺の夢は、優とずーっと一緒にいることだよ!」


小学校2年生の時


弘人はそう言って


私の大好きな笑顔で笑った





「優帰ろっ」


『あ、ごめん。今日は達也と約束してて』


「じゃあ仕方ないかっまた明日ね♪」


『うんっ』


ロッカールームで座り込んで携帯をいじっている達也


『達也。』


「おう、遅かったじゃん」


『ごめんね、廊下で先生に捕まっちゃって。帰ろっか』


ローファーに履き替えて上靴をロッカーに入れる


「なんか食ってく?」


ロッカーの扉を閉めて


私は


達也の顔を見れない…


「…なんかあった?」


『…』


白々しい。


「おい、優。」


『嘘つき。』


「は?」


『…』


「おい、優。」


『…』


「こっち見ろよ。」


強く掴まれた腕


まだ


弘人の熱が残ってる


「怒るぞ。」


『…』


「おい。」


『私が怒ってるんだよ。』


「…」


『…』


「…弘人のこと?」


『っ』


あぁ


どうしてだろう


達也から


その名前を耳にして


何かがぷつりと途切れたみたいに


不意に


涙が溢れて止まらなくなった


「今日、お前のクラスに転校生来たんだよな。」


『…』


「…今日、その話しようと思って誘った。」


『っ…』


「…目立つから下向いとけ。」


そう言って


静かに私の手を引き


少し前を歩く達也


その背中を見て


やっぱり安心する


この後ろ姿が


ずっと


ここにあるものだと…


それが


当たり前のことだと…


私は


達也に甘えてた?


本当は


達也の重荷になってた?


私を一人にしないようにすることだけが


自分の義務だと


思ってた…?


周りの視線が痛い


達也は悪くないのに


こんな光景を周りが見れば


まるで達也が女子を泣かせた悪者だ…


なのに


振りほどこうとしても


この手は離れないんだ…


ねぇ…


いつだって


私の気持ちを優先しようとする達也が好き


いつだって


私のことを全身で守ろうとする達也が好き


達也に抱きしめられると


胸の真ん中が


あたたかくなる


『弘人とキスした。』


「…」


立ち止まり


『…最低だって、殴っていいよ。』


それでも


「…」


繋がったままほどけない手


『私の中で弘人は』


「…」


『少しも消えずに残ってる…』


怒ってる…


『あの日のまま、ずっと。』


達也が…


『ねぇ…』


「…」


ねぇ


『…達也以外と…したくなかった…』


達也…


『…弘人に会っちゃいけなかった…』


わかってないね…


『…私…』


私はこんなにも


「けど」


達也のことが…


「嬉しかったんだろ?」


『…っ…』


「夢に見るほど」


『…』


「会いたかったんだもんな。」


パンッ!


「…」


『っ』


達也の頬を叩いた手が


イタイ…


『…別れる?』


「…別れねぇよ。」


『…』


「…別れてなんてやらねぇ。」


『…』


「…簡単に…あいつのところになんて行かせねぇ。」


ねぇ


そんなふうに


どうして…


『…』


達也の鋭い視線から


私は


目を逸らせない…


『…っ…』


繋がったままの手に


達也の力が


少しだけ加わったのは


まるで


離れていかないで…って


そう言っているみたいで


悲しかった


《別れてなんてやらねぇ。》


達也に


『…』


こんなことを言わせたのは


『…ごめんね…』


私だ…


『…』


達也と私は


隣のマンションに住んでいる


物心ついた頃から


マンションの近くにある同じ公園で遊んでいた


まだ母親に連れられて公園に遊びに来ていたあの頃の私たち


すぐ近所に住んでいた弘人も


よくその公園に来ていて


気付けばいつも


私たちは3人一緒だった


「また明日な。」


『うん。』


マンションの前で達也と別れて


私はマンションには入らずに


あの頃


いつも遊んだ公園に来た


『…』


あんなに小さかったのに


私たちは


少しずつ


大人になった



そして


それぞれの環境の中で


少しずつ変化していくもの


それを


止めることはできない


弘人は


私の知らない場所で


知らない人たちの中で


15歳になった


今の弘人を


私は知らない


知ることができなかったもの


ずっと隣で


見ていたかったもの


ずっとここに


あると思っていたもの


ふたりで


同じ空気の中で


同じ景色を眺めて


同じ人と触れ合って


そうやって


大人になるのだと思っていた


だけど


この町は不思議なほど


何も変わらない…


弘人と達也と


よく遊んだ公園


達也がブランコで振り落とされそうなほど加速して


それで、いつも弘人は


呆れたように


危ないよって止めるの


またやってる、なんて


私は滑り台から滑り降りて


そんな二人を見て笑う。


ブランコに座って


小さく足を動かして揺れる


あの頃は


足の先が少し触れるくらいで


私にとってはすごく大きかった


あんなに広かった砂場


滑り台


シーソー


一番大きいサイズの鉄棒は


手を伸ばしてやっと掴めるほどで


『…』


キコキコと


少し錆び付いたブランコの音が


小さな公園に響く


見上げると


小さな星が見えた


『…会いたいなぁ…』


あの頃の


あの子たちに


会いたい…


『…』


ザッザッ…と


土を踏む音が


私の少し前で止まる


『…』


「…」


あの頃の私たちには


想像もできなかった



私たちは


こんなにも


遠い…


「…キスしてよ、優。」


『…しないよ…』


「…笑」


『っん…』


小さくきしんだブランコの音


顎を持ち上げるようにして


強く触れた唇から


漏れる息は


誰のもの…


『んんっ』


口の中に


弘人の舌が入ってくる


強く瞑った目から伝う涙を


あなたは


てのひらで包み込んだ…


「…」


『…っ…』


「…お前は俺のもんだよ。」


『…』


「…笑」


ねぇ…


『…泣』


あなたを変えてしまったモノは


『…弘人…泣』


なに…?


「…」


それはあなたにとって


『っ泣』


そんなに大きなものだったの…?


背中を向けて歩いていく弘人


『…ひどい…』


立ち止まり


『っ達也と付き合ってること知ってて…こんな無理矢理っ』


静かに振り向く


「…ほんとに無理矢理だった?」


弘人は


『…』


笑った…


離れていく


ローファーの


地面の土を擦る音


私はその背中を


ただ見つめて


思う


私たちは


出会うべきじゃなかった


私は


あなたに会いたくなかった


ずっと


あの頃の思い出のまま


いつまでも


宝物みたいに


大切にしまっておきたかった…


《ほんとに無理矢理だった?》


『…』


拒もうと思えば


たぶん拒めた


拒まなかったのは


あなたがあまりにも


遠い人のように感じたから…


こんな言い訳を


過ちを


私は何度


繰り返すの…




【H28.2.14】

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