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いつか、きっと。  作者: なむ
18/20

罪。


ガチャッ


「ただいまー。」


「弘人、ちょっとこっちに来て。」


「…なに?」


「学校、行ってないの?今日先生から連絡が来たけど。」


「…」


「弘人。」


「学校には行ってる。」


「学校には?」


「教室には、行ってない。」


「…どこで、何してるの?」


「…」


「弘人っ」


「…ごめんなさい。」


少しずつ


「野村。最近学校来ないから心配してたんだぞ?」


少しずつ、広がる周りの溝。


「聞いてるのか、野村。」


俺に向けられる


俺の知らない名前。


「聞いてるって。」


「お前最近、柴田隆たちと連んでるって聞いたけど。」


「だったら何。」


「もっと…別に友達を作りなさい。お母さんが亡くなられて、お前の親戚の田中さんご夫婦にこれ以上心配かけたら、」


「放っとけよ。」


「お前、担任に向かってなぁ」


「お前に関係ねぇだろ!」


職員室に響いた声


周りの教師の視線が集まる


この日から


俺は“そういう生徒”だと見られるようになった。


それが嫌だったわけじゃない。


むしろ、その方が楽だった。


「飲み過ぎじゃない?」


缶チューハイ片手にタバコを加える俺の隣で


携帯をいじりながら言葉だけを向ける奈々


酒を飲んでも


タバコを吸っても


奈々は「やめろ」とは言わなかった


ただ、俺の隣にいた。


奈々の顎を持ち上げて


唇を押し付ける


舌を絡めるとそれに応える


「タバコくさーい。」


「…笑」


俺はもう


“あの場所”には帰らない。


もう…


「優子がさぁ、弘人のこと気になってるらしいぞ」


中2になって


下の学年に入ってきた優子


すぐに俺らのグループと仲良くなって


しばらくして、優子に告白された。


奈々と付き合っていることは知っていた


それでも、そういう事に構わない


優子はそういう女だった


「弘人、優子と二人で会うのやめて?」


「珍しいじゃん。お前でも嫉妬とかすんの?」


「茶化さないで。」


「お前と付き合ってるから付き合えねぇって言ったら、そっから特になんもねぇよ?」


「だからって、一度は弘人のこと好きだった女じゃん」


「優子が男好きなのお前も知ってんじゃん。あいつ、もう他に男いるし。」


「そんなの関係ないっ」


「しつこい。」


「っ…」


「俺が誰と会おうがお前に関係ないだろ」


「は?関係あるしっあんた私の彼氏でしょ!」


「…」


「付き合うって、そういうことじゃん。他の女と二人で会われて良い気する奴いないって。」


「…わかった。」


「約束して?」


「わかったよ。」


ガチャッ


「珍しくモメてんじゃん、階段まで声響いてたぞ」


「一応屋上立ち入り禁止なんだから、あんま騒ぎすぎんなよ。笑」


「わりぃ。」


「奈々、お前たまにヒステリックだから気をつけろよ」


「は?ヒステリックってなによ」


「はは…笑」


「弘人っ笑うな!」


「いてっ叩くなよ」


この頃はまだ


怒ったり


泣いたり


笑ったり…


その全部が


奈々が隣にいてくれたからだと


気付くこともできずに俺は…



「あの人が死んだのって」


帰り道


「やっぱ、俺のせいかな。」


夕焼けのオレンジ色に染まる並木道を歩きながら


「…」


なんとなく、そんなことを考えた。


何も変わらず当たり前に過ぎていく毎日


人が死ぬって


こういうことなんだと思った。


「馬鹿みてぇに傷付いたふりしてグレて、ほんとガキだな。笑」


「…そうだね。笑」


「…」


「弘人のお母さんは、弘人のせいで死んだんじゃないよ。」


「…」


「弘人のために死んだんだよ。弘人のために必死に働いて…それは弘人のせいじゃない、お母さんが決めた道だよ。」


「…なんだ、それ。」


「弘人のせいじゃないよ。」


「…そういうさぁ。」


「…」


「周りのそういう言葉聞いて、自分は悪くないって言い聞かせてやり過ごすんだよ俺は。」


「…」


「汚れてんな、俺。」


「…弘人。」


「…笑」


立ち止まり


隣で俺を見上げて


「弘人は綺麗だよ。だって」


俺の頬にそっと触れた


「まだ泣けるじゃん。」


優しく笑った奈々の顔を見て


俺は


こいつじゃなきゃ駄目なんだと思った。


こいつが辛いとき


今度は


俺が支えてやらなきゃいけないんだと


思った。


「…奈々。」


俺の濡れた頬を


「…俺のそばにいて。」


奈々は


「俺を…」


「…」


「裏切らないで。」


「…うん。」


そんなに優しい顔をして撫でるんだ。


それなのに



「嘘つき。」


「…」


奈々が初めて見せた涙は


やっぱり


俺のせいで流した涙だった。





「優、移動教室行こう?」


『あ、うんっ。えっと…教科書』


「忘れたの?」


『確かに持ってきたんだけど…』


机の中を覗き込んでも見つからなくて


結局ノートだけ持って教室を出た


「誰かが間違えて持ってっちゃったんじゃない?」


「人の机の中からわざわざ間違えて持ってく?」


『やっぱり私の勘違いだったのかも、家に忘れたのかな』


「まぁ今日はそんなに教科書使わないって言ってたし大丈夫だよ」


『うん。』


さっきトイレに行く前までは机の中にあった教科書。


こういうの


いつになれば慣れるんだろう。


慣れるものなのかな…。


パシッ


『っ』


頭に軽い痛みを感じる


見上げると


私の頭に教科書を乗せて


小さく笑った弘人


「落ちてたけど?」


『ぇ…ありがと。』


隣を通り過ぎる弘人の腕に


クラスメイトの女子が自分の腕を絡める


「拾ってもらえたんだ、よかったね」


「教科書落とすって何よー優。笑」


『気をつけなきゃね…笑』


弘人。


あなたの全てを


守りたいと思った。


あなたの苦しみも傷も痛みも罪も


私が一緒に背負いたいと思った。



弘人の罪は…


『…』



【H28.7.7】

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