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いつか、きっと。  作者: なむ
15/20

交差。


弘人がいなくなる夢を見た。


私たちは高校生で


いつも弘人がつけているピアス


同じ髪の色


同じ背丈。


私は涙を流す。


行かないで欲しいと願う。


その背中に手を伸ばす。


だけど


引き止めることはできなかった。


そんな夢を


あなたが現れたあの日から


私は


何度も


何度も…





「…俺だけはやめとけ。」


『…弘人…』


「…」


『…どうしてそんなこと言うの…』


「…」


『…弘人っ…』


《自殺したんだ、俺の彼女。》


『…辛いことがあるなら…』


《…俺だけはやめとけ。》


『私が支えるから…戻ってよ弘人…っ』


「…もう…」


『…』


「…勘弁してくれ。」


『っ…』




あれから二週間


あの日から


弘人は教室に来なくなった


「おはー優♪」


『おはよっ』


「授業だるーい。」


「ねぇ、今日バイトないから放課後カラオケ行かない?」


「いいねー♪優も行くでしょ?」


『うんっ』


母親がいなくなり


支えてくれた彼女がいなくなり


それを運命なんて言葉でまとめるには


あまりに残酷で


「聞いて♪昨日バイト先にさぁ」


「なになにー?」


「中学で片思いだった子が来たの♪今度久々に遊ぼうってことになってね~」


あなたは笑わなくなった


泣かなくなった


求めることをやめた


あなたは


人を愛することをやめた。


そんなの悲しいね…


誰も悪くないのに


誰も苦しまなくていいのに


なのにどうして


神様は意地悪なんだろう。


どうして


弘人だったんだろう。


あの時の


《もう…勘弁してくれ…》


絞り出したような弘人の声が


忘れられない。


「優ー?どした?」


『ぇ…』


「元気ない。多田とまだちゃんと話せてないの?」


『…』


あんなに優しく笑った弘人は


もう


『ごめんね、ちょっと体調悪くて。保健室行ってくるから先生に言っといてくれる?』


戻らないんだね。




ガチャッ。


『…』


七美たちに嘘をついて来た屋上


遠い空


どこまでも続く広い青


滲んで染み込んだみたいな白い雲


飛行機雲が


空を二つに分ける…


『…』


涙が溢れたのは


あの頃の記憶があまりに遠く感じたから


いつでもそこにあったはずなのに


気付けば触れることさえできない


あなたの心は


もう


私の届かない場所にある


『…』


ガチャッ


『っ』


少しだけ期待して


扉の開く音がする方へ振り向いた


もしかしたら


弘人が来てくれたんじゃないかと


太陽の光を遮るように手をかざす


風が吹き、横髪がふわりと舞い上がる


小鳥がうたいながら空を飛ぶ


屋上の扉が音を立てて閉まり


扉にもたれるようにして腕を組んで私を見つめた


『…あなた。』


弘人の後輩の女の子。


「…」


まるで私をあざ笑うように


まるで私を憎むように


そんなふうに


私を見つめて


「…弘人に何言ったの。」


その言葉の意味が


『ぇ…』


わからずに戸惑う。


苛立ったようにその子は小さく足を揺らす。


私とその子は


お互いに


お互いの知らない弘人を


『…』


好き。


「弘人に昔話でもした?」


小さく笑って


静かに私の元に歩み寄る


『…それの何がいけないの。』


その子がなぜだか


『…私の知ってる弘人に戻って欲しかった。』


泣いているようで…


『あの頃に戻ってって言った…それの何がっ』


パンッ!


『っ』


頬に


『っ…』


ジリジリと痛みが走る


「…ふざけんなよ。」


『…』


「あんた、弘人の何知ってんの。」


ねぇ…


「弘人が変わる瞬間を、私らは見てんだよ。」


『…』


「まさかあんた、初恋の人を救いたいとか悲劇のヒロインぶって自分に酔ってるんじゃないよね。」


ねぇ、弘人…


「弘人は変わったんじゃない…自分が救われる道に自分から変えたんだよ。…弘人が壊れる瞬間を私らは見てきた。」


『…』


「あんたも“あの女”と同じだね…」


『…っ…』


「そういうの理解できないやつが正義ヅラして偉そうなこと言ってんなよ!」


ごめんね…


『…泣』


その子のいなくなった屋上で


私はただ


立ち尽くすことしかできなかった


頬から零れ落ちる涙が


地面にいくつもの跡を残す



私は弘人のことを



追い詰めていたんだ…



私は弘人のこと



本当になにも





知らなかった。



【H28.6.2】

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