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いつか、きっと。  作者: なむ
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あの日。

ねぇ それが 運命だったかな。


「ごめんね、優。」


『え、なに?』


「俺、明日引っ越すんだ。」


『…え?』


「親が離婚するんだって。だから…母さんに着いて行くことになった。」


『そんな、急に…っ』


「本当に…ごめんね。きっと…達也がずっと、そばにいてくれるから…。」


『…』






ピピピピッピピピピッーーー−


『んっ…』


「優、遅刻するぞ。」


『ぁ…おはよ。』


小学校5年の頃


大好きだった幼馴染の弘人と


初めての恋をした


まだ、恋人なんて関係になるには子供すぎたけど


ずっと一緒なんだと思ってた


二人でずっと一緒に


ゆっくりと大人になっていくんだと


だけど


私たちの別れは


突然訪れた


穏やかで優しかった弘人


辛い時はいつもそばにいてくれた


彼がいない人生なんて


考えられなかった…


あれから5年


私は


高校生になった。


『…』


「優?」


『ぁ…夢、見てた。』


「ん?」


『…弘人の夢。』


「…」


グッ


『んっ』


ベッドに体を押し倒されて


突然キスをする


『っ…ん…』


「…」


しばらくして離れた唇


舌の感触が残る


頭がクラクラする


『…達也。ごめん…怒んないで。』


覆いかぶさるように私を見下ろしたまま


「怒ってないよ。」


達也はそう言って


小さく笑うんだ


だから私は


記憶に蓋をする


思い出に


背を向ける


『ねぇ、達也。』


「なに。」


『ありがとね。』


「…なんだよ。」


『なんでもなーい。』


「ほら、早く用意しろ。ほんとに遅刻する。」


『うんっ』


高校に入ってすぐ


海外赴任することになったおじさんに着いて行くと言ったおばさん


まだ高校生の息子を置いて行くなんて


相当な恋愛体質な達也のお母さん


昔から放任主義だとは思ってたけど


こんな広い家に達也一人を残して行っちゃうんだもん


弘人のおばさんがもしもこのくらい放任主義なら


もしかしたら弘人は


ずっとあの家にいられたのかな?


なんて…


小学生の子供を置いていけるわけなんてなかったことくらい


わかってるんだけど。




ガラッ


「優おはーっ」


『おはよーっ七美』


「ねぇ、まーた多田の家泊まったの?」


『うん、だって達也が一人じゃ寂しいってうるさいんだもーん』


「言ってねぇだろそんなこと」


『きゃっ』


達也に後ろから首に腕を回される


達也がふざける時の癖


『本気で苦し一っ離して!』


「はいはい、朝からラブラブですねー多田夫婦。」


『ちょっと美羽、助けてよー!』


「おっす。多田、宿題見せてっ」


「あ?俺隣のクラスだっつの」


「じゃあ昼休みでいいから解き方教えてくれーっ」


「あほか笑 宿題くらい自分でやれっつの」


「は?冷たくね?多田ーっ」


「じゃあまた後でな、優。」


「うんっ」


「あ、そうだっ。ねぇ優、聞いた?」


『え?』


あの頃、私たちは


「うちのクラスに転校生来るらしいよー」


永遠なんて


そんなちっぽけなものを


『へぇ、こんな時期に珍しいね。』


本気で信じていたんだ。




ガラッ


「あっ来た!」


「男子だ♪てか超イケメンじゃん!」


「ほらーチャイム鳴ってんぞ席に座れー!」


『…』


「このクラスに転校してきた佐野だ。佐野、自己紹介して」


「は?だりぃ。」


「簡単にでいいから」


『…』


「佐野っす…よろしく。」


「佐野ー適当すぎ。まぁいい、席はそこの佐々木の後ろ空いてるから座れ。」


『ぇ…』


「優いいなー♪佐野くん後ろだって!」


『っ…』


少し着崩したような制服


真新しい上履きのかかとは踏みつぶして


茶色に染まった少し長めの髪の隙間から見えるピアス…


『…』


隣を通り過ぎる時に聞こえた


「…よ。」


あの頃とはもう違う


低くて落ち着いた


男の人の声…


ドカッと後ろの席に座った佐野


『…』


佐野弘人…


「ねぇ、優ちゃん。」


『…』


「後で校内案内してよ。」


そんなふうに


『…っ…』


人を見下すような声で…


「ホームルームは以上。一限目移動教室だろ、すぐ移動しろー」


クラスの生徒がぞろぞろと席を立ち上がる


「佐野ってどこから来たの?」


「横浜。」


「へー、この時期に転校って珍しいよな。もう一年の後半だし」


「まぁ」


「佐野くん彼女いるのー?」


弘人の周りに集まるクラスメイトたち


男子とも女子とも


あっという間に打ち解けていく…


「あっ優待ってよー」


『早く移動しないと遅刻だよ。』


「けどみんな佐野くんと話してるし大丈夫だって。私もいろいろ話聞きたいーっ♪」


『じゃあ私は先に行ってるよ』


「え、優?どうかしたの?」


『…別に。』


「お前らはやく移動しろー!」


「うわっ担任戻ってきた」


「佐野、行こうぜ。」


「教室案内するよ」


「さんきゅ。」


「私たちも一緒に行くー♪」


『…』


弘人の周りに集まる女の子たち


腕に手を回した女の子に


振り払いもせず慣れたように笑いかける弘人


私の知らない


あの人は


誰…



「優?」


『え?』


「佐野くんのこと見過ぎ。笑」


『え、違うよっ!』


「はいはい、多田に言いつけてやろー」


『ちょっと七美、美羽!』


「冗談だって、焦りすぎー笑」


移動教室につき


授業が始まる


教室が暗くなり


スクリーンに映像が映し出される


薄暗い教室の中


いつまでも女の子たちにヒソヒソ声で質問攻めされる弘人


いつの間に弘人


こんなにモテるようになったの。


『…トイレ行ってくる』


「はーい」


七美たちに声をかけ静かに後ろの扉から教室を出て


トイレの方へ廊下を歩いていく


廊下の窓から吹き込むそよ風


立ち止まり


窓の向こうにある空を見つめる


秋のにおいがする


ほんの少し冷たい風を避けるように


また


足を進めようとした時


『っ』


後ろから


「…」


腕を掴まれて、その足を止めた


『…なに。』


「冷てぇ。笑」


『離してよ、腕。』


「やだ。」


『…なんか、変わったね。』


「あ?」


『あの頃と…全然雰囲気違うから。身長も、私と同じくらいだったのに。それに…』


「…んだよ。」


『…』


そんな風に


鋭い目で誰かを見ることなんて


あの頃はなかった…


「普通はこういう時、もっと喜ぶもんじゃねぇの?俺ら5年ぶりに会えたんだぜ。」


『っ…』


「俺は会いたかったよ。」


『っよく言うよ…あれから一度だって連絡くれなかったくせに。』


「あぁ、怒ってんの?笑」


『っ…』


「別に俺ら、付き合ってたわけでもねぇし。お前ら中学入ってすぐ付き合ったんだろ?」


『っ』


そっか…


『…もういい。』


なんだ…


『離してよ。』


「は?」


『…』


達也とは連絡とってたんじゃん…


『…っ今更戻ってきて…馴れ馴れしく話しかけないで!』


「…」


ドンっ!


『っ』


「…」


『…っ』


突然壁に強く体を押し付けられ


強く触れた唇


『っ…』


「…」


『…痛い…』


ねぇ


『…泣』


なんで…


「…泣くほど嫌かよ。」


そんなふうに


「あの頃はこんなこと、俺ら普通にやってたじゃん。」


見下すような目で小さく笑って


「…」


そんなふうに


『…』


優しく抱きしめないで…


『…』


「優。」


『…っ…』


「…一人にして、悪かった。」


耳元で


小さく呟いた弘人


『…泣』


ねぇ


5年分の距離は


思っていた以上に大きくて


あんなにそばにいたのに


今は


こんなにも遠い


あなたが何を考えているのか


私には


なにもわからない…


『…ねぇ。』


そっと体を離し


背を向けた弘人を


呼び止める


『名字…なんで5年前のままなの?』


あなたは


振り返ることもせず


「母親に捨てられて親父に引き取られた。」


『…え?』


「なんてな。笑」


そんな風に


空っぽな声で笑うんだ…


『…』


掴まれていた腕が赤い


熱が残る


痛みが…


『…最低…』


ねぇ


あの頃


本当に最低だったのは




誰…






【H28.2.14】

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