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闇のカケラ  作者: 御堂筋優
1/2

終焉

「ねぇ・・・さん」

震える声で私を呼ぶモノ。


あぁ、お前か。私を殺したのは・・・。


血に染まる視界にぼんやりと移る彼女に、うっすらと笑みを向ける。すると

彼女はビクッと体を震わせ、力なくその場に座り込んでしまった。

ふふっ、早く逃げきゃ見つかってしまうよ?

お前が、私を殺した犯人だって・・・。

そんなの嫌だろう?



 



お前は両親に嫌われるのをいつも恐れていた。理由は簡単。



お前が私より劣っているから。



私の、いや私たちの両親は自他ともに厳しいヒトたちで、それは自身の子供で

ある私たちにたいしても同様だった。

だが私も妹もそれに異論があったわけではない。

まぁ、あったとしても盾突く気はさらさらなかった。


だって私は両親の言うことを聞くというより、自分が望んだことを実行した

だけだったし。

妹がどう思っていたのかは分かりかねるが、反抗しなかったということはどう

とも思っていなかったのか、それとも両親に捨てられるのを恐れていたのか。

私の予想ではおそらく後者だろう。

 妹は私に劣る。それはどう足掻いても変わらない境界線。だってお前は私

より一年もあとに生まれたんだ。それは仕方のないことで紛れもない現実だ

し、逆に言えば一年間の差があるのに劣っていないなんてどう考えたって

可笑しい。劣っていて当然なんだ。だって、私の方が一年間の時間があって。

一年は365日で。8760時間で...。

こんなにも時間の差があるのに、私が妹に負けてたらそれはただの馬鹿だ。

だから、今のこの『差』は当たり前だってことは誰でも理解できるはずなの

に、両親は気付いているのかいないのか、それとも気付いていながらも気付い

ていないふりをしているのか、そこまでは私にもわからないが、とにかく両親は

私と妹の間にあるこの『差』を好しとはしなかった。

その証拠に両親はいつも私とお前を比べ、勉強も、運動も、才能も、技術も、

容姿も・・・全て私と比較し、劣っているお前に嫌悪していた。

それが悲しくて、悔しくて、お前が陰で今まで以上に頑張っていたことを私は

知っている。

何事にも妥協せず全てにおいて私に追いつき、越えようとしていたことも。

そして、お前が私を・・・憎んでいたことも。

全部ぜんぶ、知っている。

しかし私はそれを理解していながらどうこうしようとは思っていなかった。

両親にお前の努力を伝えることも出来ただろう。

お前の力になることも出来ただろう。

お前に同情の眼差しを向ける事も出来ただろうに。

私はそれをしなかった。

しようと思わなかった。

それは何故か。

何故だろうな、何故なんだろう。

自分の事なのによく分からない。

別にお前に追い越されるのを恐れていたわけでも、両親の気持ちを独占した

かったわけでもないんだ。

だがまぁ、しいて言うなら私はお前に興味がなかったんだと思う。

好きでも、嫌いでもなく。

ただ単に、興味がなかった。

私を負かそうと悪戦苦闘しているお前にも、期待の眼差しを向けてくる両親

にも。

興味が、なかったんだ。



 だって大手企業の社長とその秘書である両親にとって、私たちはただの駒で

しかなくて。

優れている方を会社の次期社長として迎え入れ、もう一方を秘書にしようと両親は考えていた。


自分たちの作り上げた会社をより繁栄させ、自分たちの功績を世に残すために。


その為だけに私たちを、生んだ。

かしてきた。

その事を私は知っている。

勿論、妹も...理解している。

だから私たちは捨てられないように全てを完璧にこなさなければならなかった。

生きるために、生かされるために私はお前に、お前は私に負けてはいけなかっ

たんだ。


でも・・・お前は私に勝てなかった。


一年というハンデがあっても私とお前とでは出来が違う。

そのことに両親は気付いてしまったのだ。

何故なら私は異端児と呼ばれ、試験では常にトップ。

高校で習う分野は中学の時に熟知し、外国語も英語だけに留まらずフランス語、

イタリア語、中国語を覚え、高校では朝鮮語、スペイン語、ドイツ語、ポルト

ガル語を習得し、一年で卒業した。そのせいか私は、普通の人間より可笑しな

考えを持つようになり、いつしか人を人とも思えなくなってしまったのだった。

その結果、『人間』を『モノ』と呼ぶようになり、それは家族に対しても同じ

だった。

まぁ、家庭が普通ではなかったからなのかもしれないが、そのせいで私は、少し・・・いやかなり狂っていた。

人間と虫の区別がつかない程に。

何が違うのか全くわからないのだ。

どこがどのように違うのかが理解できない。

だが、こんな考えをする人間はあまり『普通』とは言えないらしい。

そのせいで妹には嫌われていたし、出来の良すぎる私に周囲のモノたちは畏怖

の念を抱いていたのも知っていた。

だが、両親だけは私のような存在を求めていたのだ。


化け物染みた、異端なモノを!!


 しかし、私はそれをどうとも思わない。両親が期待しようが、周囲の奴らが

私を忌み嫌おうが・・・関係ない。興味が湧かないんだ。

『嫌い』といえばいいのだろうか。

兎に角、どうでも良かった。

 だが・・・私は気付いた。

私は周囲の奴らが『嫌い』というな訳ではない、ということに。

 『好き』の反対は『嫌い』で、私は奴らが『好き』じゃないから『嫌い』だと

思い込んでいたのだが、『好き』も『嫌い』も意味は変わらないものだと気付い

てしまった。

『普通』な奴らが私のこの意見を聞けば、頭が可笑しいというかもしれない。

しかし、本当にそう思ったんだ。

『好き』と『嫌い』は全く違うようで似ている、と。

 『好き』と『嫌い』

どちらもその対象にたいして興味を抱いた結果に浮かびあがる感情だ。

ということは、『好き』と『嫌い』という感情を持っている以上、その対象に

己は意識を向けていることになる。

それなら『好き』が『嫌い』になることも、その反対になることもあるのだ。じゃあ、それは対といえないのではないのだろうか。

結局は一直線上にあり、その線の上を行き来しているだけに過ぎない。

いつかは変わりゆく感情。

好意はいつしか嫌悪へと変わり、嫌悪はだんだんと薄れ好意を抱いていく。

混ざりゆく二つの感情は決して対ではない。

黒と白を混ぜ灰色になっただけなのだ。

ただ、その時々によって黒と白の配合の比率が変わるだけ。

完全な『黒』か『白』になったわけではない。

黒に見えても結局は白が混ざっていて、白に見えても結局は不純物が入っている

んだ。

本当に対なら、交わってはならない筈だろう。

0か100じゃなくては。

それなら・・・

 『チガウ』

私は、奴らに対してそう思っていない。私は・・・興味がないんだ。奴らが

存在していても、していなくても・・・どうでもいい。あぁ、そうだ。

 『無関心』

この言葉が私には丁度いい。

『好き』の反対は『嫌い』?そんなこと誰が言った。

『好き』と『嫌い』の反対は・・・『無関心』だ。

なんで今まで気付かなかったんだろう!!死に際に気付くなんて!!!

あぁ、もっと早くにこのことに気付いていれば、私は今より更に人間らしく生き

られたのだろうか。

そうしたら私は・・・---------。

ふっ。詮無きこと、か。

所詮、過去。

もう時間は元に戻らない。

いや、私には未来も無いのか。

自身の妹に殺され、死ぬ。

お前には驚かされっぱなしだ。

姉である私を殺し、私の考えを改めさせる。

奴らとお前は違ったのか。

本当に、今更気づくなんて。

惜しい事をした。

お前は私にとって、特別になれる存在だったなんて。

でも、もう良い。

どうせ、私は終わりなんだ。

それならせめて、最後に。

私に、面白い事を気付かせてくれたお前に、感謝の意を込めて。


『お前を人間だと認めてあげよう』


フッと笑みを浮かべ、手を伸ばす。

生まれて初めて私が認めた人間を見つけたのが、私の死ぬ間際だなんて。

しかもその対象は私のすぐ近くにいた、たった一人の妹。

今までなんとも思ってもいなかった。

妹だろうがなんだろうが、私にとってはただの『モノ』であってそれ以上でも

それ以下でもない筈で・・・。

それなのに一瞬で『人間』となった妹に酷く驚き、それと同時に嬉しいという

感情が芽生えた。

すごい、凄いな。私は両親にさえ無関心だったというのに、

お前に対しては感情を持てたということか。

 私は、自分が思っていたよりお前の事が好きだったのかもしれない・・・な。

「由佳・・・お前の、こと・・人間だって、認めてあげ・・・るよ」

「・・・っ!!」

私が初めて呼んだ妹の名前。これは私からお前に対しての称賛の意。

世界に蠢く『モノたち』の中でたった一人、私に家族と認められた妹は、今

何を思っているのだろう。

そう思いながらも、ゆっくりと目を閉じた。

その間際「麗姉さん、おやすみなさい」という優しげな声が聞こえたのは私の

気のせいだろうか。

それを確認できないのは少し惜しいが、私は口角をゆるり持ち上げ、死した

人形と化した。






~・~・~・~


 目を開けるとそこは純白の世界。

白い天井、白いベッドシーツ、白い・・・顔?

「アラッ、この子もう目を開けたわ!!」

と私の顔を覗き込む黒髪、青目の美女。

そしてその後ろには赤髪、金目のこれまた見目麗しい男がいた。

「・・あう?」

自分では「貴方たちは誰ですか?」と聞いたはずなんだが意味の分からない言葉

が私の口から漏れた。

すると目の前の美女は目を輝かせ、私を抱き寄せた。

「きゃあっ、なんて可愛いの!!」

「さすが俺たちの子だな」

「えぇそうね。将来有望だわ!」

ウフフ、アハハと笑いあっている男女。先ほど彼らは『俺たちの子』と言った。

・・・しかも、私に向かって。

きょろきょろと辺りを見渡す。

だが私と彼ら以外に人なんて一人もいない。

と言うことは私が彼らの子供なのか。

「あぁう!」

手も足も小さい。

頬はプニッとして柔らかいし、言葉を喋ろうにも「あうっ!」とか

「うぅうう!!」しか言えない。

・・・有り得ないぞ。

私は妹の由佳に殺された筈なのに、なんで生きているんだ。

しかも十六歳だったのに、赤ん坊になるなんて・・・。

「あうぅぅ」

なんて滑稽なのだろう。

手足が短い。

そのことにほんの少しだけショックを受けていると、男がそれに気付いたようで

ミルクを持ってきた。

「ほらっ、ミルクだぞ?」

グイッと口に哺乳瓶を突っ込まれ、一度むせるがそこは耐える。

しかし次の瞬間、私は・・・・・・吐血した。

「きゃあああああっ!貴方、一体この子に何をしたの!?」

「べべべべ別に毒を入れたミルクを飲ませただけだが・・・!!」

「赤ん坊のミルクに毒を入れちゃダメよ!せめて五歳まで待たなきゃ!!」

「そっそうなのか?!」

俺はてっきり、大丈夫だと・・・。

ショックで固まりブツブツと何かを呟く男を押しのけ、女は私を抱き上げる。

「カノンはどこ!!メルちゃんが死んでしまうわっ!!」

甲高い声を廊下に響かせ、物凄いスピードで走りながらカノンという奴を探す女。

その腕に抱かれていた私は空気がうまく吸える筈がなく。

体に毒が回ってしまったことも相まってあっけなく意識を手放した。

もしかしなくても、私ってこのまま死ぬのだろうか。






まさか一日の内に『死』を二度も味わうなんて思ってもみなかった。







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