能力
夜の路地裏で絶賛立ち往生中の僕、白月九音はどこにでもいるような男子高校生だ。
現在進行形で六人の黒スーツを着た怖い人達に銃を向けられたりしているがいたって普通の男子高校生である。
何故このような状況になっているのかと言われれば、正直僕にはわからないとしか言い様がない。
早く家に帰るために近道である路地裏を通っていたら、突然前後から現れたこの人達に道を塞がれたのだ。
こんな人達にケンカを売った覚えもなければ、売られる覚えもない僕にはこう言うしかないわけで.....
「あのー、人違いじゃないですか?」
僕としては、このまま何事もなく家に帰りたかったのだが、どうやらそう上手くはいかないらしい。
現に僕が質問してすぐに銃の引き金は引かれたのだから。
音速に達した必殺の弾丸は普通ならば僕を貫いていただろう.....僕が本当に『普通』だったならば。
「対象を『B』ランク防御系統の能力者と判断。
これより確保に移る」
僕の直前で停止している弾丸を見やてリーダーらしき男が告げるのと同時に飛来する水の散弾。
その反対側、僕の後方からは雷弾が飛んできており、上をちらりと見ると僕の大きさを軽く上回る炎の塊が落ちてきている。
そしてここは狭い路地裏、右も左も逃げ場はない。
どう見ても僕を殺す気の攻撃を見て戦慄する。
そんな明らかにオーバーキルな攻撃に対して、無意識に僕の能力が発動した。
必死に能力の発動を抑えようとするが、もう遅い。
前方と後方から飛んできていた水と雷弾が何かに弾き返されたかのように進行方向を逆にして黒服達に襲いかかる。
まさか弾き返されるとは思わなかったのか、自分達が放った時よりも速くなった攻撃を呆然と眺め、あっさりと呑みこまれていった。
そして、上から飛来していた炎の塊は今やその動きを完全に停止させられている。
停止させられた炎は徐々に色あせていき、やがてその形体が保てなくなったかのように崩れていった。
今や立っているのは少年のみ。
黒服達は地面に倒れており、遠方から精神系統の能力を少年に行使しようとしていた黒服の仲間も一時的ではあるが精神を崩壊させられ行動不能に陥っている。
しかし、それを引き起こした少年の顔は苦痛に歪んでいた。
絶え間なく続く酷い頭痛に歯を食い縛り、永遠にも感じる痛みが治まるのを待つ。
「『この能力を使えば使う程、あなたは死に近づく
。』、か。
分かっていたつもりだったんだけどなぁ…」
やがて痛みは治まり、遠くからパトカーの音が近づいて来るのを感じながら少年は歩きだす。
深く暗い闇の中へ........




