閑話休題:アリサ
アリサは俺とは天と地の差。
本当に「神」がいるなら、神に愛されてるというしかないような子供だった。
アリサは俺と同じ日、最高ランク、Aランクとして生を受けた。
ランクの制度が始まって30年、たった4人しか現れなかったAランクの5人目、それがアリサだった。
アリサが生まれた日はそのニュースで大騒ぎだったらしい。そりゃそうかもしれない。
実際アリサの頭脳は異常だった。
小学校に特例として3歳で入学、1ヶ月で卒業。
俺らが6歳になる頃、アリサは大学院で数学者としてすでに成功を収めつつあった。
詳しくは知らないが、アリサの研究成果は世界的に有用だったらしい。
一方で、アリサはひどく正直で、優しい子供だった。
両親の教育も変わっていたのだろう。
Qランクの馬鹿どもと家を連ねるなんて、普通のエリート一家は許さない。
そんな状況で、アリサは必然的に俺のような馬鹿と親しくなる。
アリサは俺らが何かするたびに「すごいね!」と褒めた。
俺はアリサが心配だった。
選民意識のある奴らにいじめられないだろうか、アリサまで馬鹿になってしまわないだろうか、と俺の方が当人より気をもんでいたほど。
そんなアリサが、1ヶ月前、壊れた。
原因は、わからない。
少なくとも前に挙げたいじめなどではない。意外と根っこが強いのだ。
まず、部屋から出てこない。
ようやく出てくると、ふらふらになって、顔はやつれて、目つきは恐ろしい程強い。
早くしなきゃ、と何かに焦っていた。
そんなアリサが俺の部屋の前に立っていたのは、3日前の夜のことだった。
アリサは唐突に俺の肩に腕を回し、耳元で囁いた。
「逃げよ、わたしたちで。」