6話 天国のような地獄のような
本話は特に進行はありません。
「エ・・・・様、起きてくださいエリオット様。」
人に起こしてもらうのなんて、何年ぶりだろうか・・・。
時計が無いので解らないが、睡眠量が中途半端なためか、目がショボショボする。
「お昼ごはんになりますが、お体のお加減は大丈夫でしょうか?」
「ア、アスーさん。大丈夫ですよ。」
ぼやけていた視界が直ると、直ぐ近くにアスーさんの顔があった。
これほど近くに、異性(しかも美人の!)に近づいたことが無かったので、顔が熱くなってくる。
「そうですか、良かったです。お昼は料理長が色々と工夫して作ったそうですので、食べやすいと思いますよ。」
アスーさんに上体を起こすのを手伝ってもらう。
「はい。お食べください。」
「ありがとう。」
アスーさんがちょっと深めのスプーンにスープを掬って口元に持ってきてくれる。
何のスープかはよく分からないが、やや緑がかっておりトロみがある。
初めて嗅ぐが、ほんのりとした良い香りが食欲をそそる。
ほんの少し口に含み、飲んでみた。
メチャクチャ美味しと言うわけではないが、程よく塩分があり、食べやすかった。
「これは何のスープ?」
「はい。薬草を初め、体に良い葉物をすりつぶしたスープです。小麦粉とジャガイモのすりつぶしでトロみを出し、タジンの葉で香り付けをしています。」
タジンの葉というのが何なのか解らないが、前世(?)と同じか似たような食材があるらしい。
「はい、エリオット様。あーんしてください。」
美人のお姉さん(前世の年齢で行くと年下の可愛い娘)に「あーん」をしてもらえるなんて想像もしなかった。
手足がしびれていなかったら、嬉し恥ずかしで布団を引っ被って悶えていただろう。
嬉し恥ずかしの天国から来る表現のし難いパトスを耐える地獄の状況で、何とかスープを完食できた。
「スープはどうでしたか? 食べにくい点などありましたでしょうか?」
「いえ、大丈夫ですよ。とても食べやすかったですし、美味しかったです。」
「それは良かったです。」
アスーさんがそう言って、胸をなでおろす。
「あ、分量はもう少し増やして欲しいです。」
「解りました。料理長に伝えておきますね。では、食器を片づけてきますので、エリオット様はお休みください。」
アスーはそう言ってワゴンを押して出て行った。
目覚めてから3日間、朝と昼に軽く一般常識の説明を受け、後は寝るだけと言った生活をしていた。
正直、次のステップに移るための間を作るのに苦労しています。