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婚約者のために命を削っていたら、親友に寝取られました。隣国の冷徹な王様が「その命、私に預けろ」と抱きしめてくれたので、幸せになります

作者: もも子
掲載日:2026/06/30

喉の奥から、鉄錆のような味がする。

今日もまた、私の命をレオナルド様に捧げた証拠だ。


公爵家嫡男である婚約者、レオナルド様の魔力の器は致命的に小さい。

彼を次期当主に押し上げるため、私は家伝の秘術を用いて自身の生命力を魔力に変換し、彼に注ぎ込み続けていた。


鏡に映る私は、歳を重ねるごとに痩せ細り、髪は雪のように白く褪せていく。それでも、彼が私の冷たい指先に口づけをくれるたび、それが「愛」だと信じて疑わなかった。


「エレナ、今日もレオナルド様は素敵ね。貴女が支えている甲斐があるわ」


親友のソフィアは、そう言って優しく私の髪を梳かしてくれる。

彼女だけが、私のこの醜い姿を否定せず、唯一の理解者としてそばにいてくれた。


だが、そのすべてが完璧に仕組まれた「捕食」の過程だったとは、知る由もなかった。

 

二人が密会を重ねていることを知ったのは、運命の祝賀会の夜だ。会場の隅、柱の陰から聞こえてきたのは、彼らの醜悪な本音だった。


「ソフィア、あの女の魔力増幅器としての性能は限界に近い。次の魔力提供で、完全に使い潰す」


「ええ、レオナルド様。私が毎日エレナを『愛の献身』という名の呪いで縛っておいたから、彼女は最後まで自分が利用されていることにも気づかないわ。貴方が英雄として認められたら、正式に結婚しましょう」


頭の中で何かが砕けた。私の命で肥え太った二人が、私を「肥料」として笑い者にしていたのだ。


舞踏会の会場で、レオナルドはソフィアを抱き寄せ、私の命の残滓を注ぎ込まれた圧倒的な魔力で周囲を圧倒していた。


私はもう、動くこともままならない。

会場の床に力なく倒れ込み、意識が白濁していくなかで、ただ静かに灰になるのを待った。



「――無様に捨てられたものだな」


氷のような冷気が、私の崩れ落ちた視界を支配する。


隣国の若き王、アーサーだった。


彼は私の惨状をひと目で理解したのか、一切の躊躇なくその大きな腕で私を抱き上げた。


「……殺したい。彼らを、私の手で」


私がかすれた声で呟くと、彼は私の顎を強引に掴み上げ、その冷徹な瞳で私の内面を暴くように覗き込んだ。


「面白い。……レオナルドの魔力は、私にとって毒にも薬にもならぬ薄っぺらなものだ。だが、その根底にある『お前の血』は違う」


アーサーの指先が、私の首筋に触れる。彼にはわかっていたのだ。

私がただの聖女ではなく、一族に伝わる「真の魔力源」であることを。


彼はレオナルドではなく、私を奪うためにこの祝賀会へ潜入していた。


「エレナ、取引をしよう。私の魔力を流し込み、お前の凍りついた心臓を再起動させる。その代わり、お前の魂の所有権は今後、すべて私に帰属する。お前は今日から、私の『つがい』だ」


その言葉は、救済という名の契約だった。


私のすべてを捧げる代わりに、この男の力で彼らを地獄へ落とす。どちらを選ぶべきかなんて、迷うはずもなかった。


「……私のすべてを、貴方に捧げます。だから、彼らを地獄に落として」


「ああ、喜んで。お前の望みは、私の望みだ」


彼が私の唇を塞いだ瞬間、暴力的なまでの魔力が私を内側から支配した。

それはレオナルドのような搾取ではない。私の魂の奥底、孤独をアーサーが強引に埋めていく感覚。


この男は、私の最も醜い復讐心さえも愛しているのだ。

私を「所有」することで救おうとする倒錯した執着の深さに、私は深く引き込まれていった。


会場に戻ったアーサーが指を鳴らすと、レオナルドの体内で渦巻いていた虹色の魔力が、暴力的なまでに逆流し始めた。


「ぎ、あああああッ!? なんだ、体が、体が熱いッ!」


レオナルドの体は自壊を始め、英雄の輝きは霧散し、かつての無能な公爵令息へと急速に巻き戻っていく。


傍らにソフィアが駆け寄るが、アーサーの魔力に触れた瞬間、彼女の美しいドレスは安っぽいボロ布へと変わり、剥がれ落ちた化粧の下から、私を嘲笑っていた醜い本性が衆目に晒された。


「や、やめて! 全部エレナが勝手にやったことよ!」


貴族たちは、魔力を失った二人を冷淡な目で突き放す。


アーサーは私を抱きしめたまま、その様子を獲物を見るような目で冷淡に見下ろした。


「エレナ、これが貴様の望んだ結末か?」


私はアーサーの胸に顔を埋め、喉の奥から乾いた笑い声を漏らした。


「ええ……もっと、絶望させて。彼らが私にしたみたいに、自分たちが一番大切にしていた虚栄心と未来が崩れ去るのを、一生見せてあげて」


レオナルドは廃人のように、ソフィアはどん底の貧民街で、一生エレナの名を呪いながら生きることになった。



「さあ、帰ろうか。私の城へ」


足元で泥を這う二人を尻目に、私はアーサーの首に腕を回した。


彼の魔力により、白かった髪が燃えるような銀色に染まり直していく。強制的で、しかし最高に甘美な「所有」の印。


「ねえ、アーサー。……次は、どんな幸せを私にくれるの?」


「お前の望むもの全てだ。その代わり、死ぬまで私だけを見つめていればいい」


私は、冷徹な王の腕の中で、初めて自分の意志で微笑んだ。

 

もう、誰も私の命を奪えない。


これからは誰かのための道具ではなく、この強引な男の所有物として、世界で一番甘い蜜を貪り尽くして生きていくのだ。


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