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聖獣召喚の儀で『失格』になった私、実は最古の神獣に選ばれていました  作者: 月代


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第8話 銀煌の覚醒

 空が裂けた。

 文字通りの表現だった。闘技場の上空に漆黒の亀裂が走り、そこから禍々しい瘴気が溢れ出す。


 観客席がパニックに陥った。五万人の悲鳴が闘技場を揺るがす。王宮騎士団が即座に動き、避難誘導を始めた。


「何が起きている!?」


 国王が立ち上がる。貴賓席の騎士たちが聖獣を展開し、防御陣を張った。


 闘技場の中央では、ザインの漆黒の蛇竜がさらに巨大化していた。体長二十メートルを超え、六つの目が赤く輝いている。


「これは闇獣の中でも上位——六眼蛇竜。千年前に封じた闇帝ヴォイドの眷属だ」


 アルの声は低く、厳しかった。銀狼の姿を維持しているが、全身の毛が逆立っている。


「アル、闇帝ヴォイドって——」


「千年前、我ら四体の神獣が命をかけて封印した闇の神。世界を滅ぼしかけた存在だ。その封印が——綻びかけている」


「嘘……」


「嘘ではない。あの蛇竜は前触れに過ぎん。ヴォイドの復活を企む者たちが、千年かけて暗躍してきたのだろう」


 ザインが高笑いした。


「その通りだ、銀煌帝! 千年かけて準備した。宰相閣下の協力も得てな——この大闘祭に闇獣を紛れ込ませるのは造作もなかった」


「宰相……!」


 ノエルは貴賓席を見た。ダリウス・メルヴィン宰相の席は——空だった。もういない。


「合同演習の結界破壊も宰相の仕業だったのか」


「ご名答。だがあの時は計算外だった。まさか神獣が復活しているとは思わなかったからな。——だから今日、確実に始末する」


 六眼蛇竜が咆哮した。闇の衝撃波が闘技場を叩く。


 王宮騎士団の聖獣たちが迎撃するが、上位聖獣の攻撃すら通じない。闇獣の鱗に弾かれ、逆に闇の瘴気で蝕まれていく。


「聖獣が——効かない!?」

「騎士団の上位聖獣でも歯が立たないのか!」


 ノエルは拳を握った。


「アル。もう隠している場合じゃない」


『……ああ。その通りだ』


「本当の姿を見せて。——あなたの全部を」


 アルの金色の瞳が、眩く輝いた。


『ノエル。全力を解放すれば、お前の体にも相当な負荷がかかる。耐えられるか?』


「三ヶ月、何のために鍛えたと思ってるの」


 ノエルは笑った。震えていたけれど、逃げる気はなかった。


「行こう、アル。一緒に」


『——ああ。行くぞ、我が唯一の主よ』


 銀色の光が爆発した。


 小さな銀狼の体が砕けるように輝き、膨れ上がる。五メートル、十メートル、十五メートル——そして、二十メートル。

 六眼蛇竜と同等の巨体。だが纏う気配は次元が違う。


 銀色の毛並みは月光そのもの。金色の瞳は二つの太陽。額の三日月の紋章は、夜空を割るほどの輝きを放っている。

 四肢は優美にして力強く、一歩踏み出すだけで大地が震えた。


 銀煌帝アルシェス。

 千年の伝説が、五万の観衆の前に——その真の姿を現した。


 闘技場が、静まり返った。

 恐怖ではない。畏怖だった。人類がこの世界に生まれて以来、DNAに刻まれた記憶——守護者への、根源的な敬意。


『——久しいな、闇の残滓よ』


 アルシェスの声が世界に響いた。その声を聞いた瞬間、六眼蛇竜が怯んだ。千年前に刻まれた恐怖を、闇獣もまた覚えているのだ。


「ひるむな! 攻撃しろ!」


 ザインが叫ぶ。六眼蛇竜が闇のブレスを放った。

 漆黒の奔流がアルシェスに迫る——


「『銀煌結界アルシェス・フィールド』」


 ノエルの声に応え、アルシェスの全身から銀色の光が放射された。闇のブレスは結界に触れた瞬間、浄化されて消え去る。


「嘘だろ——闇獣のブレスを無効化した!?」


 観客席から驚愕の声が上がる。だがノエルには聞こえていなかった。

 全神経をアルシェスとの繋がりに集中している。神獣の全力を受け止める器——その役割を果たすだけで、体が軋むように痛い。


『ノエル。大丈夫か』


「大丈夫。続けて」


『……強情な主だ。だが——それがいい』


 アルシェスが跳んだ。二十メートルの巨体が宙を舞う。

 六眼蛇竜の頭上から、銀色の前脚が振り下ろされた。轟音。闘技場の地面が陥没する。


 蛇竜が尾で反撃する。アルシェスの脇腹を打つが、銀色の毛皮は傷一つつかない。


『千年前と同じだ。闇獣の力では、神獣には届かない。——終わらせよう、ノエル』


「うん。——『銀煌帝の裁き(ジャッジメント・シルヴァ)』!」


 ノエルが叫んだ瞬間、アルシェスの口から銀白の光線が放たれた。

 闇を焼く、浄化の光。千年前に世界を救った神獣の必殺の一撃。


 六眼蛇竜が絶叫した。闇の体が銀光に蝕まれ、端から崩壊していく。


「馬鹿な——千年前の封印の力が、まだ健在だと——!?」


 ザインの顔から余裕が消えた。漆黒の外套を翻し、逃走しようとする。


「逃がさないわ」


 ノエルの目の前に、氷の壁が出現した。

 振り返ると——セレスティーナが、氷麒麟フリーレンとともに立っていた。


「セレスティーナ!」


「あなただけにいいところは取らせないわ。——こいつの逃げ道は、私が塞ぐ」


 ルキウスの雷狼ヴォルトがザインの退路を断ち、王宮騎士団がザインを取り囲んだ。


 六眼蛇竜が完全に消滅した。

 空の亀裂も閉じていく。銀色の光が浄化の波となって闘技場を満たし、闇の瘴気を洗い流していった。


 静寂が戻った。

 そして——


 五万人の歓声が、地鳴りのように轟いた。


「銀煌帝だ! 伝説の神獣が——!」

「あの少女が契約者なのか!?」

「王国は守られた!」


 ノエルは膝をついた。体中の力が抜けていく。神獣の全力を受け止め続けた反動が、一気に押し寄せてきた。


『ノエル!』


 アルシェスが光に包まれ、人の姿に戻った。銀髪の青年がノエルを抱き支える。


「大丈夫……ちょっと疲れただけ」


「ちょっとではない。魔力が枯渇寸前だ。無茶をしすぎた」


「だって——守りたかったんだもん。この国を。みんなを。……あなたと一緒に」


 アルの金色の瞳が揺れた。

 千年を生きた神獣が——泣きそうな顔をしていた。


「……馬鹿者。お前が倒れたら、我は何のために千年待ったのだ」


「ごめんね。でも——勝ったよ、アル」


「ああ。——勝った」


 アルがノエルを強く抱きしめた。

 五万人の歓声の中、銀色の髪がノエルの頬をくすぐった。


 空を見上げると、亀裂が消えた青空が広がっている。

 嵐が去った後の、穏やかな光。


 ノエルは意識が遠のく中、ただ一つだけ思った。


 ——ああ、温かい。


 アルの腕の中で、ノエルは静かに意識を手放した。

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