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聖獣召喚の儀で『失格』になった私、実は最古の神獣に選ばれていました  作者: 月代


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第7話 聖獣大闘祭

 聖獣大闘祭に向けた三ヶ月は、ノエルにとって怒涛の日々だった。


 まず、アルシェスとの連携を鍛え直す必要があった。

 神獣の力は圧倒的だが、それを扱うノエル自身の器が追いついていない。いくらアルシェスが強くても、契約者のノエルが倒れれば聖獣も消える——それが聖獣契約の鉄則だ。


「まず体力をつけろ。話はそれからだ」


 アルの指導は容赦なかった。毎朝の走り込みから始まり、魔力制御の訓練、実戦形式の模擬戦。

 北の森の泉のほとりが、二人だけの訓練場になった。


「はぁ……はぁ……アル、もう無理……」


「まだだ。あと三周」


「鬼……」


「神獣だ。鬼よりたちが悪いぞ」


 へとへとになりながらも、ノエルの体は確実に変わっていった。

 魔力の総量は元々トップクラス。足りなかったのは、それを制御する技術と体力だった。アルシェスの力を自在に引き出すには、ノエル自身が器として耐えられなければならない。


 一ヶ月が経つ頃には、ノエルはアルシェスの力の十分の一を安定して引き出せるようになっていた。


「十分の一って、すごいの?」


「上位聖獣の全力と同等だ。大闘祭の予選は突破できる」


「予選は……ね。決勝は?」


「決勝までに、さらに引き上げる。——お前ならできる」


 アルの言葉には、いつも迷いがなかった。

 ノエルを信じて疑わない、その真っ直ぐな金色の瞳に、ノエルは何度も勇気をもらった。


 訓練と並行して、学院での日々も変わっていた。

 神獣の契約者という情報は最高機密のはずだったが、合同演習での目撃証言から「ノエルの聖獣は上位聖獣以上」という噂は広まっていた。


 マリエッタは、ノエルと目を合わせなくなった。

 以前ノエルを拒んだクラスメイトたちは、不自然なほど愛想がよくなった。

 手のひらを返す周囲に、ノエルはかえって寂しさを覚えた。


「ノエル。一緒にお昼、どう?」


 唯一変わらなかったのは、セレスティーナだった。

 あの夜の涙の後、セレスティーナは少しずつノエルに歩み寄ってきていた。以前のような上から目線ではなく、対等な友人として。


「あなたの聖獣——本当の姿は、まだ教えてくれないのよね」


「ごめんね。もう少しだけ待って」


「……いいわ。でも大闘祭では見せてもらうから。私も出場するもの」


 セレスティーナの碧眼に、闘志が灯っていた。

 氷麒麟フリーレンの契約者として、彼女も大闘祭の有力候補だ。いつかノエルと戦うことになるかもしれない。


「楽しみにしてる」


 ノエルが笑うと、セレスティーナも笑った。

 壊れかけていた友情が、少しずつ修復されていく。その温かさが、ノエルにはたまらなく嬉しかった。


 そして——三ヶ月はあっという間に過ぎた。


 聖獣大闘祭。

 王都の大闘技場に、全国から聖獣使いが集結した。

 観客席は五万人で埋まり、国王以下、王族や高位貴族が貴賓席に並んでいる。


「すごい人……」


 控え室から闘技場を覗いたノエルは、思わず足がすくんだ。


「緊張しているのか」


 アルが隣に立つ。今日は人の姿ではなく——演習の時と同じ、少し大きめの銀狼の姿だ。力は封じているが、合同演習よりは解放している。


「緊張しないわけないでしょ。五万人が見てるのよ」


「五万人ではない。お前を見ているのは俺一人だ。他の者など、背景と同じだ」


「……その言い方、ちょっと好き」


 ノエルは深呼吸をして、闘技場に足を踏み入れた。


 予選リーグは順当に勝ち上がった。

 銀狼の姿でも、アルシェスの力の十分の一は上位聖獣に匹敵する。下位・中位聖獣の使い手たちは、ノエルの前に為す術もなく敗れていった。


「あの銀狼、何なの? 下位聖獣のはずなのに——」

「突然変異? それとも亜種?」

「フォルティア家のノエルって、あの落ちこぼれの?」


 観客席がざわめく中、ノエルは決勝トーナメントに駒を進めた。


 準々決勝の相手は、ルキウス・ヴァルハイトだった。


「やはり、ここで当たったか」


 ルキウスの灰色の瞳が、真剣な光を宿している。


「手加減はしない。お前の聖獣の本当の力——ここで見せてもらう」


 ルキウスの雷狼ヴォルトが咆哮した。上位聖獣の全力。稲妻が闘技場を照らす。


「アル」


『分かっている。——少し、本気を出すぞ』


 銀狼の体が一回り大きくなった。封印の一部を解放——アルシェスの力の五分の一。

 それだけで、闘技場の空気が変わった。


 ヴォルトの雷撃とアルの銀光弾がぶつかり合う。衝撃波が闘技場を揺るがし、観客が悲鳴を上げた。


「これは——上位聖獣同士の戦いと同等!?」


 解説者の叫び。だがノエルとアルの真の力は、まだその先にある。


 ルキウスは歯を食いしばり、ヴォルトに最大出力の雷撃を命じた。

 紫電の奔流が銀狼に迫る——


「アル、『銀煌壁シルヴァ・シールド』!」


 銀色の防壁がノエルの前に展開された。ヴォルトの雷撃を正面から受け止め——弾き返す。


「な——」


 跳ね返された雷撃がルキウスの足元に着弾し、ルキウスが体勢を崩した。


「今! 『月牙閃ルナ・スラッシュ』!」


 銀狼の口から三日月型の光刃が放たれ、ヴォルトを直撃。上位聖獣の雷狼が吹き飛ばされ、光の粒子となって消えた。


 静寂。

 そして——爆発的な歓声。


「勝者、ノエル・フォルティア!」


 ルキウスは膝をつきながら、不敵に笑った。


「……やはりな。あの銀狼は、下位聖獣なんかじゃない」


「ルキウス先輩……」


「いい戦いだった。——決勝で待っている者に、気をつけろ」


 その言葉の意味を、ノエルはすぐに知ることになる。


 準決勝を勝ち上がり、ノエルは決勝の舞台に立った。

 対戦相手は——見知らぬ男だった。

 黒い外套に身を包み、フードで顔を隠している。名前は「ザイン」とだけ名乗っていた。

 準決勝まで圧倒的な力で勝ち上がってきたこの男の聖獣は、漆黒の蛇竜。見たこともない種だった。


『ノエル。気をつけろ。あの蛇竜——禍々しい気配がする。聖獣ではない』


 アルの念話が鋭く響く。


「聖獣じゃないって……じゃあ何?」


『闇獣だ。聖獣の対極に位置する——禁忌の存在。千年前、我ら神獣が封じたはずの闇の獣』


 ノエルの血が凍った。


 決勝戦の開始を告げる鐘が、高く鳴り響いた。


 フードの男——ザインが、口元だけで笑った。


「ようやくお出ましか、銀煌帝。千年ぶりだな」


 その声は、ノエルではなくアルに向けられていた。


「我が主、闇帝ヴォイドの復活のために——お前の力、いただく」


 漆黒の蛇竜が咆哮した。闘技場の空が、黒い亀裂で裂けた。

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