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 まもなくして、やはりアンナへのいじめが始まり犯人はルーナだという噂が立ち始めた。まだ噂をしている生徒は少ないが、公爵令嬢相手だから抑えられているだけだろう。

 今回も王太子と仲良くしている太陽の少女に嫉妬した、というシナリオらしい。

 馬鹿らしくてまた笑ってしまいそうだったが、ルーナはわざとその噂に乗っかるように行動した。


 空き教室に呼び出されたらそこへ行き、持ち物がなくなったら探すふりをして、中庭へも行った。とにかく学校中を歩き回るその姿は、ほとんどの生徒に目撃され笑いの的になっていた。


 それもすべて計算の内、復讐をより完璧に成し遂げるための選択だった。


 もともと優秀だったルーナだが、繰り返しの中で三年間学ぶべきことは全て身に着いていた。だから、もっと応用的なこと……実戦で使える力を手に入れようと考えた。

 この悪夢の黒幕がアンナだったとして、対抗できる力がなければ無意味だ。誰よりも強くなって、脅かされることのない存在になる。そして必ずこの地獄を抜け出す。それがルーナの目標だった。


 令嬢が鍛錬に出るなどまず両親が許さない。だが、ルーナの父、王国騎士団団長のレオナルドはそうではなかった。

 ルーナに魔物の知識を叩き込み、月の少女として強くなるように言いつけている。学園で学ぶことは一通り終わっているルーナは、余った時間をすべて魔物討伐に使った。


 魔力が底をつけばポーションで補給する無茶なやり方もためらわなかった。癒しの魔法を使えるようになってからは傷つくたびに自身で治癒をかけ、戦い続ける。

 いつしかルーナの魔力は底なしと言えるほど膨大になり、ついに一人でダンジョンを攻略するほどの力を身に着けた。


 自己研鑽に夢中になれば学園での孤立も気にならず、周囲に冷たくされても平気だった。護衛も役割を放棄したが、自分の身は自分で守れる。

 むしろ醜悪な噂に踊らされる周囲と違って、強さを求め孤独を恐れない自分を誇らしく感じていた。


 そして一年がたつ頃、失敗を重ねてようやく習得した魔法「月の鏡」。それは魔法陣を刻んだ空間で起こったことを記録し、離れた場所からでも見聞きできるようにする魔法だった。

 この魔法は、本来は使用禁止の禁忌魔法である。人の生活をのぞき見たり、悪用されることが多いからだ。また、学園などの公共の場にはこういった禁忌魔法を防ぐまじないがかけられている。一流の魔術師がかけるものだが、ルーナの魔力がそれを上回ったため上書きは容易だった。


 習得の目的はただひとつ、いじめの真偽を探るため。


 ルーナはいつも通りなくしものを探しているように装って学園内を歩き回った。

 魔法陣の書き込みと隠ぺいを繰り返し行い、アンナの通りそうな廊下、教室、講堂や中庭にまで魔法を施す。

 どんなに学園をうろついても、もう誰もルーナを怪しまないし心配もしない。とっくに仕事をしなくなっていた護衛や侍女もついてこない。

 ただ一人、ユエルという侍女だけがルーナを案じて学校へついていくと言い出したが、彼女の立場が悪くなると考えて断った。それに、一人の方が動きやすいしあの家で自分に話しかけてくれるだけでも十分だと思っていた。



「よし、一通り終わったわね」



 二週間もかかったのは予想外だったが、授業も受けつつ放課後と休み時間しか利用できなかったから仕方がない。

 夜、家の人間が寝静まったころ。用意した銀の水桶に水をたっぷり溜めて月明かりを部屋に入れる。自室に音を閉じ込める魔術と隠ぺいの魔術をかけて準備を整えた。


 ちなみに魔術と魔法の違いだが、魔術はある程度才があれば誰でも使える。だが、魔法は加護を持つ人間しか使えないし、自分の加護に由来するものでなければ出力が落ちる。

 「月の鏡」は月光に宿る魔力を使用する。つまりは月の加護に由来する魔法だから、アンナには使えやしないだろう。裁きの加護や先見の加護があれば使えるらしいがこの国には存在しない。

 つまりこの魔法とこれから見る記録は、ルーナだけの切り札となる。



 深呼吸して、水桶に刻まれた魔法陣に魔力を込める。水面が白く光ると一度波打って、見慣れた教室の風景が映し出された。魔法は成功したようだった。

 ルーナは冷静に、次々と映し出す場所を変えて悪魔の姿がないか目を凝らした。


 ふと一つの景色に目を止める。それは使われていない空き教室、ルーナが何者かに手紙で呼び出されて向かった場所だった。

 まだ精度が悪いせいか少し見づらいが、間違いなくアンナの姿が浮かんでいる。それに見たことある令嬢が二人、どちらも子爵令嬢だ。



『……ルーナ様…んなことを?』



 会話が聞こえてきたが、途切れていて上手く聞き取れない。

 ふと、自分の胸がざわついていることに気がつく。やはり自分を貶めようとする現場を見るのはためらわれる、そんな心情が魔法の精度を下げているんだろう。けれどここで割り切らないと、何も変えることはできない。


目を閉じてもう一度深呼吸をする。

魔力を込め直すと、波紋は消えて一切の陰りもない景色に変わっていた。ルーナは今度こそ覚悟を持って目を開いた。




『ルーナ様が本当にそんなことを?』


『ええ、アンナさんの物を中庭の花壇へ捨てたらしいの。ルーナ様のハンカチも一緒に落ちていて…そうよね、アンナさん?』


『そうなの…きっと私の物を触った後に手を拭いて汚らわしいと思ったからハンカチを捨てたんだと思う』


『先生には相談したの?』


『ルーナ様は公爵令嬢だもの。怖くってなにも…』


『私たちはアンナさんの味方よ、なんでも協力するわ!』


『じゃあ一週間前、私とルーナ様がこの教室に入っていくところを見たって証言してくれる?アルバート様に近づくなって怒鳴られてしまって…』


『もちろん!ルーナ様はよくここを出入りしているって噂だし、皆信じてくれるわ』


『その日はこの教室の近くで授業があったし…わたしも大きな声を聞いたような気がする』


『二人ともありがとう…!』




 仮説が真実へと変わった。ルーナは確かに、手紙でこの教室に呼び出されている。アンナはいじめを捏造するばかりか、令嬢に嘘の証言を頼んでいた。


 しかし引っかかるところがある。



(いくら正義感に後押しされたからと言って、子爵令嬢が公爵令嬢相手に嘘の証言なんてするかしら?)



 これは十分、と一旦考えるのをやめて今度は渡り廊下を映す。アンナが一人で歩いている様子が映し出された。何か周りを気にしていて落ち着かないようだ。

 続いて中庭を映し出す。「花壇に物を捨てられた」というのが気になっていた。

 ほどなくして、校舎の影からアンナが現れる。その手には教科書とルーナのハンカチが握られていた。



 そこまで見て、ルーナは魔力を止めた。水面は水桶の底の魔法陣を透かして揺れ、月光はいつのまにか雲に隠れてさえぎられていた。



「…本当に、嘘だったのね」



しばし目を伏せて、ルーナは肩を震わせる。



「…ふ……っく…ふふ、あはは!」



 暗闇の中、ルーナの乾いた笑い声が響いた。魔術のおかげで部屋の外にもれていないが、聞かれていたらついに狂ったと思われていただろう。

 ひとしきり笑い終わると、はーっとため息をついて顔を上げる。その表情はどこまでも冷たい刃のようで、先ほどのような笑みはない。金色の瞳は飢えた獣のように爛々と輝いていた。



 今までの繰り返しの中で、少しでもアンナを案じていた自分が馬鹿だった。

 これまでもこんな風に罪を捏造されていたかと思うと想像しただけで虫唾が走る。何よりこれほど程度の低い人間に踊らされていた自分が情けなくて恥ずかしい。


 ルーナは水桶を片付けてベッドに乱暴に寝ころんだ。この魔法は消費が激しくて疲れる。続きはもう少し間を空けてからでも遅くはないだろう。

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