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「本日より、皆様はこの学園の生徒として…」
学園長の話の最中、ルーナの視線は落ち着きなくあたりを見回していた。知った顔に声をかけてみたが、社交辞令の挨拶で終わってしまう。皆、ルーナには近寄りがたいという態度で挨拶が済んだらそそくさとその場から去っていった。
(昨日まで友人だと思っていた人も、まるで初対面のようだわ…)
周囲との温度差に戸惑いながらも、記憶通りに入学式は終了し教室へ集まる。簡単なホームルームの後、帰り支度を始める同級生をよそにルーナは一人で別の教室をのぞいていた。
そこはアンナのクラスだった。もしかしたら自分を覚えているかもしれない、そんな淡い希望を胸に親友の姿を探す。
「…!アンナ!」
ついに見慣れた後ろ姿を捉えて、ルーナは思わず駆け寄った。
公爵令嬢とあろうものがこんな風にふるまうなんて両親が知れば叱られると思ったが、親友の面影はそれ以上にまぶしく縋るような思いだった。
「はいはーい、呼んだぁ?」
振り返ったアンナはどこかぶっきらぼうに答えると、ルーナの顔を見た瞬間、その表情を一変させた。目が吊り上がり、大きく口を開けたかと思うと聞いたことのない声色で叫び散らした。
「はあ!?勘弁してよほんとに!!ルーナでしょあんた!?」
「そ、そうだけど…わたしのこと、分かるの?」
大きな怒鳴り声にそばで見ていた護衛もあっけにとられ、周囲の学生も注目している。
そして目の前にいるのがルーナであると改めて確認すると「チッ」と舌打ちしてさらに大声で叫んだ。
「あんたみたいな邪魔なキャラまで再現されてんの意味わかんない!消えろよ!」
あまりにも自分の知っているアンナとは違いすぎて、思わず唖然としてしまった。あどけなく可愛らしい顔は苛立ちにゆがみ、今にも噛みついてきそうな勢いで睨みつけてくる。
「あんたがいるせいでアルバートの攻略クソだるいし本ッ当最悪!サポートでもいらないっつーの」
アンナは周りの目など気にせずにそう続ける。
話の内容は全く意味のわからないものだが、この場にいた者全員が公爵令嬢に対しての無礼であると理解していた。
(わたしの知っている姿とずいぶん違う…この人、本当にアンナなの?)
大好きな親友に暴言を吐かれ、見に覚えのない敵意を向けられ、戸惑っていた時だった。
「今の態度は看過できないな」
アルバートが会話に割り込んできた。右手をルーナの前に出し守るような仕草を見せると、アンナは一瞬顔をひきつらせたがすぐに態度を変え、甘い声で「アルバート様~!」と親しげに呼びかける。こんなこと、ルーナの知っているアンナは絶対にしない。
「ごめんなさい、私…ちょっと緊張しちゃったみたい。偉い人に話しかけられるの、まだ怖くって」
「偉い人というなら、僕は王太子だ。もっと恐縮してもいいんじゃないか?」
「いいえ!アルバート…様は、なんていうか親しみやすくて…むしろもっとお話ししたいな~とか思っちゃったりして」
制服のスカートを握りしめ上目遣いで話すアンナから、媚びとも言えない耐えがたいオーラを察したアルバートは思わず一歩後ろへ引いた。
すかさずアンナが一歩近寄るが、自分が避けられたことには気づいていないようだった。
「今の君は子爵令嬢なんだ、立場をわきまえなさい」
なんとか制止するが、アンナは引こうとしない。「でも~」「平民同士じゃ立場なんてなかったし~」と言い訳を繰り返していた。
「そうだ!アルバートってなんだか長いし、アル様って呼んでもいいですか?」
「……悪いが、君の好意は迷惑だ」
「…は?」
「君が散々怒鳴り散らしたこの人は僕の婚約者で大切な人だ。まさか、それを知っていての狼藉なのか?」
「いや、え?そうじゃなくって私は…」
「もういい。二度と僕たちに関わらないでくれ」
行こう、とアルバートに手を引かれルーナはその場を後にする。振り返ってみるとアンナは何か独り言を言っているようだったが聞き取れなかった。
その後、アンナは奇行や意味不明な発言が目立ち、他学年さらには他校の生徒ともトラブルを起こしたそうで、最終的には心身虚弱という体で退学処分となった。
ルーナはその後もアンナを気にかけていたが、彼女と友人だった記憶は自分の夢だと片付けて、卒業式を迎えようとしていた。
しかし、目が覚めるとまた入学式の朝になっていた。
この日、ルーナは気づいた。自分は記憶を維持したまま入学から卒業までを繰り返していると。




