第Ⅲ章:隠された出来事(かくされたできごと)
第Ⅲ章:隠された出来事
バファロウエイドの町にある宿屋で、
ウィニー は弱々しいロウソクの明かりが灯る部屋のベッドの上で目を覚ました。
胸には包帯が巻かれていることに気づく。横を見ると、椅子に座った オスニ が眠っていた。
突然、雨が降り始め、雷が轟いた。オスニ は驚いて起き上がり、空っぽの空間に銃を向ける。
— なんだって? — と オスニ は叫んだ。
ウィニー は口元に手をあてて笑う。
— ウィニー、冗談じゃないよ。でも、君が無事でよかった — オスニ は部屋の窓を見ながら言った。
— オスニ、また助けてくれてありがとう — と ウィニー は穏やかに言った。
— 礼なんていらない。俺たちが一緒にいる限り、離れないほうがいい — と オスニ は手を差し伸べた。
— 約束ね。でも、こんなことが起きるなんて。最初は何も感じなかった。その魔女は、私の感覚を欺けるほど強力だったの。
— 魔女?どういうこと?今日のこと、何かわかったのか?
— オスニ、まだはっきりしないけど、確かに今日、魔女が私を殺そうとした。警戒しないといけない — ウィニー は強調する。
— 全てが終わるまで、君のそばにいるよ。
— 本気なの、ウィナーショットさん? — ウィニー は嬉しそうにする。
— ああ、本気だ!
暗い森の中のどこか、
顔の半分が露出した傷だらけの「老人」グランディ がいる。
フードを被った人物が現れる。
— アガサ、なぜここに? — とその「老人」は尋ねる。
アガサ はフードを下ろし、髪をお団子にした黒髪の女性が現れる。
彼女の瞳は夜のように漆黒で、首には美しいアゲート石のネックレスが光っていた。
— あなたに任務を与えたのよ、ルビ。見てみなさい、自分を。チャンスはあったのに。それとも、あの ウィニー はそんなに強かったの? — アガサ は落ち着いて威厳ある声で言った。
— アガサ、殺すつもりだったけど、あの忌々しい友人が突然現れた — と「老人」になりすましていた ルビ は言った。
— 誰?
— 奴の名は オスニ・ウィナーショット。
— ウィナーショット?自然の母に誓って、これは運命だわ。ルナレスとウィナーショットの血がまた一緒に動いてるなんて。昔もその名を聞いたし、今また私を邪魔しに来たのね。
【バファロウエイドの町】
オスニ は伸びをする — 新しい朝だ。
— よく眠れた、オスニ? — ウィニー はもう支度を終えていた。
— ああ、君は?傷が治ってる…でも、どうやって? — オスニ は驚く。
— 簡単な治癒呪文と薬草を使ったの。
— 自分で治せたのに、どうして僕が巻いた包帯を付けたままだったんだ? — と オスニ は不思議そうに尋ねる。
ウィニー は少し考える…
— 君が一生懸命手当てしてくれたから、少し甘えたかったの — と穏やかに言う。
オスニ は何も言わず、ただ見つめる。
— 行きましょ、オスニ! — ウィニー は急かす。
— どこへ?ウィニー
— 都へ行くの。魔女たちが現れたチュパカブラの背後にいるって伝えないと。それに、儀式のために何かが集められているみたい。あの人々、あの物…ゴブリンたちが奪っていたもの、そして黒魔術を使っていた魔女…全部偶然とは思えない。
— 黒魔術?
— 彼女の魔力は重くて、憎しみ、怒り、復讐の念が強く伝わってきた。彼女の源は善のものではなかったわ。
— 君と一緒に行くよ。
— うん、わかってる。
— 君に渡したいものがあるんだ — オスニ はポケットに手を入れる。ウィニー は見守る。
— ピアスだ、見てごらん。
ウィニー はそれを受け取り、驚く。
— オスニ、このピアスは間違いなく強力な儀式で作られたものよ。
— どういう意味?
— オスニ、このピアスは千年樫の輪、自然死したデビルアウルの骨の針、そしてこの輪にある小さな石はインペリアルトパーズで、カブトガニの青い血でコーティングされているわ。こんなに小さいけれど…
— 希少な素材で構成され、魔力が込められているのよ! — ウィニー はその物の複雑さを説明する。
— 全然わからないな — オスニ は笑いながら言う。
— オスニ、この品は、血のスーパームーンの光の下でしか作成・封印できないものよ。
争いの最中、「夜の女王たち」は非常に強力な魔法の道具を8つ作り出したの。
一方で、ヴァリスの魔女たちは同じスーパームーンを利用して、かろうじて2つの道具を作った。
でも、戦争の終わりには、それらは全て失われた。
なぜなら、それぞれが計り知れない魔力を秘めていたから。
政府はその道具をあまりにも危険と判断し、聖遺物の捜索を始めたの。でも、一つも見つからなかった。
このイヤリングは、その「血の遺物」と呼ばれる10個のうちの一つよ。どこで手に入れたの?
— この辺の角をいくつか曲がったところにある店で手に入れた。でも、「血の遺物」って何なんだ?
— 聞いた話によると、それらは宝石の中に力を秘めているの。
そして「カオス・ヘッド」の時代に、それぞれが特徴と力を発揮したとされている。
最初が「操作の遺物」、次に「幻影の遺物」、「音楽の遺物」、「破壊の遺物」、「混沌の遺物」、「混乱の遺物」、「道の遺物」、「空の遺物」、「始まりの遺物」、そして今あるのが「幸運の遺物」 — と ウィニー はイヤリングを見つめながら言う。
— 幸運?まさに今、必要としてるな。
— オスニ、それを見つけた場所に連れていって。
ウィニー は店へと走る。
店のあった場所に着くと、ウィニー の目の前には何もなかった。
— ここには何もないわ、オスニ。ただのバーと床屋よ。
— でもどうして?間に店があったんだ、誓うよ — オスニ は二つの店の間を指差す。
— オスニ?
— 誓って本当だ、ウィニー。
— もういいわ。今は私が持っておく — ウィニー は怪しみながら観察する。
オスニ は、店があったはずの場所を見つめ、どうして消えてしまったのか理解できずにいた。
すると突然、ウィニー の前に現れたのは、彼女と オスニ を救った黒い馬だった。
— よく来たわね、相棒。どうしてここに? — と ウィニー は馬の顔を撫でる。
— ウィニー、彼が君を助けてくれたんだ。彼がいたからこそ、間に合ったんだ。
だから、僕たちも一緒に旅をしよう。
都まではあと三日だ。もう一度フォルキスを通って、クロナ川を越えたら、フランクチェスターに着く — オスニ は言う。
— わかったわ — ウィニー は嬉しそうに返事する。
— じゃあ、彼の名前はどうしよう? — オスニ は馬を指差す。
— 真っ黒で、黒い瞳、長いたてがみ、背が高くて力強くて、勇敢 — ウィニー は馬を見ながら特徴を述べる。
— ハーキュリーズはどう?
馬は地面を3回踏み鳴らした。
— ダメみたいね、オスニ。じゃあ、「トルマリーナ」はどう?
馬は前足を上げていななき、満足そうに反応する。
ウィニー は馬の頭を両腕で包み込み、体格差を見せながら優しく抱きしめた。
— ふざけてるのか?こいつオスじゃないのかよ!? — オスニ はボヤく。
トルマリーナ は軽く後ろ蹴りをして、オスニ を地面に転ばせ、ほこりまみれにした。
— まったく、俺ってヤツは…
地面に転がっているオスニの視線の先に、一台の荷馬車が家の横に止めてあった。
しばらくして、ウィニー と オスニ はその荷馬車に乗って、トルマリーナ がそれを引いていた。
彼らは山と森の合間の道へと進んでいく。
— ウィニー、なんで町を通らないんだ? — オスニ は尋ねる。
— 北の森を通れば、フォルキスまで1日、フランクチェスターまでは2日で行けるからよ。
— なんでそんなに旅に詳しいんだ?
— お母さんとお父さんが、7歳のころからいろんなことを教えてくれたの。
お母さんは魔法とその性質やつながりを。
お父さんは勇気と自己信頼を教えてくれたわ。あと、素晴らしい探検家だったのよ — ウィニー はため息まじりに語る。
— すごいな…
— それで、あなたは? — ウィニー は問いかける。
— 俺が?何が?
— どうしてそんなに射撃が上手いの?それに、臆病者じゃないわよね? — ウィニー は興味深そうに聞く。
— 俺はそんなに上手くないよ。父さんのほうがすごかった。
いろんな角度から、遠距離にある物を正確に撃ち抜いてた — オスニ は笑う。
— 本当に腕の立つ人だったのね — ウィニー は言う。
その瞬間、オスニ の中に記憶がよみがえり、彼は一瞬気を取られる。
40歳の男が、ベージュと白のシンプルなスーツを着て、茶色の目、少し白髪交じりの髪で、小さな少年に銃の撃ち方を教えていた。
— オスニ、よく見ろ。銃に集中するんだ。それはお前の一部であり、友達なんだ。
銃はお前の声を聞き、お前は銃の声を聞く。手の中の重みを感じろ。弾丸が標的に向かって飛び出したがっているのを感じろ。
目の前のものを恐れるな。絶対に目を閉じるな。そして、狙いたいものにまっすぐ目を開けろ。
これがウィナーショットの証だ — と父親が言った。
— お父さん、ある人たちは、あなたを裏切り者だって言ってるよ。
— オスニ、自分にとって本当に大切な人で、人生の一部である人以外の言葉には耳を貸すな — 父親は言う。
— でも、父さん…
— オスニ、お前は自分自身の名前を作れ。お前は俺じゃない。さあ、続けろ。銃がお前を待っている — と父親は言った。
オスニ は発砲するが、庭の中央にあるテーブルの上の缶を外してしまう。
— また外した…俺は下手だ — とオスニ は落ち込む。
— オスニ、銃の声を聞かなかったんだな。いつか、俺の銃はお前のものになる。
けど、その前に、お前自身の銃と出会い、つながりを感じる時が来る。
それが「艦隊の真の兵士」になる道だ — と父は言う。
— 父さんみたいに?
— いや、息子よ。俺よりもっと優れた男に。
回想は終わる。
— オスニ、大丈夫?
— ああ、もちろん!(笑)
— 父の言っていた銃とのつながり、あのときは全然わからなかった。でも…
— 雨の日、父のリボルバーを手に取った。今も俺が持っているやつだ。
そして森に行って、一本の木に向かって撃ち始めた。全部同じ場所に命中した。
最後の一発を撃ったとき、木が一緒に泣いてくれた気がした。
弾のサイズよりはるかに大きな穴が開いた。その瞬間、銃が俺を受け入れてくれたと感じた。
だから俺は、旅立つことを決めたんだ — とオスニは語る。
— オスニ… — ウィニー は考え込む。
夕暮れ時、ウィニー と オスニ は休憩し、食事をとる。
焚き火をつけ、キャンプを設営する。
— ウィニー、火がうまく上がらないんだ。魔法でなんとかならないか?
— 何言ってるの?私、その元素は得意じゃないの。
— え?魔女だろ?植物を地面から出してただろ。土が得意で、火はダメなの?
— 土も得意じゃないわ。フォルキスでは、あの土地の植物の成長を促す簡単な呪文を使っただけ。
「土」を操ったわけじゃないの。
— じゃあ、何が得意なんだ?
— 特に何も。私は元素魔法が好きじゃないの。
— なんでだ? — オスニ は尋ねる。
— 私の好みじゃないの。私は柔軟な呪文の方が好き。特定のものはあまり練習してないわ — とウィニーは答える。
オスニ はゆっくり立ち上がり、ホルスターに手を伸ばす。
— オスニ? — ウィニー は不思議そうに尋ねる。
— 後ろだ! — オスニ は銃を抜く。
ウィニー が振り返ると、約3メートルの大きく、黒くて非常にがっしりとした獣がいた。
大きな唸り声を上げる。トルマリーナ はいななき、オスニ はすぐに発砲する。
— ウィニー、あれって…
— そう、狼人間よ。警戒して! — ウィニー は構える。
— 狼男って満月の夜にしか変身しないんじゃ? — とオスニ は焚き火の後ろでリボルバーをリロードしながら言う。
— それは迷信よ。でも、満月の時は確かに強くなる。月の魔力が彼らを凶暴にするの。
— マジかよ?今の月って?
— 心配しないで。今は新月よ。
— そいつは安心だな、狂った化け物に囲まれてるってのに — とオスニ は神経質になりつつ皮肉を言う。
あたりは静まり返る。
— なんとなく、今夜は長い夜になりそうだ — オスニ は言う。
突然、狼人間が姿を現し、地面に爪を突き立てて火花を散らす。
— 伏せろ! — オスニ は ウィニー を抱きかかえ、地面に倒れ込む。
— 助かったわ。
二人は立ち上がるが、オスニ の背中には傷ができていた。
— オスニ、大丈夫? — ウィニー は血を見て尋ねる。
— 平気さ — オスニ は左手で傷を押さえる。
— 少しの間、気を引いてくれる? — ウィニー はバッグを探り始める。
— “簡単なこと” だな — オスニ は皮肉っぽく言う。
狼人間 が オスニ に向かって突進してくる。
オスニ は発砲するが、弾はかすったり、木に当たったりするだけ。
獣は非常に俊敏だった。
— 弾切れだ! — オスニ は叫ぶ。
狼人間 は焚き火の近くにあった木を引き抜き、それを オスニ に投げつける。
オスニ は幹を避けながら叫ぶ。
— ウィニー、魔法があれば今は助かるぞ!こいつはチュパカブラどころじゃない!
— 待って、確かここに… — ウィニー は小さなバッグの中を探る。
狼人間 が ウィニー に向かって突進し、オスニ は石を獣に投げる。
それによって、獣はすぐに オスニ に意識を向ける。
— あった! — と言いながら、ウィニー はペンダントを取り出す。
— それは?
— 銀よ!
— トランスフォルマティオ(変形) — ペンダントを見つめると、それは弾丸に変わった。
オスニ は地面に落ちた銃を拾って立ち上がる。
— オスニ、受け取って! — ウィニー は弾を投げる。
オスニ はそれをキャッチし、素早く銃に装填する。
狼人間 はもう目前にいた。
オスニ は本能的に発砲し、弾は獣の胸に命中、倒れ込ませた。
— 神よ、今のは本当にギリギリだった… — オスニ は安堵する。
狼人間 は地面で痙攣を起こしながら、人間の姿に戻っていく。
銃弾が命中した場所は変色し、膨れ上がった灰色の血管に覆われた奇妙な構造になっていた。
— でも、なんで銀の弾を使うなんて危ないことを?
そんなの、狼人間に効くなんて迷信じゃなかったのか? — 疲れた様子で オスニ が言う。
— 私は銀について何も言ってないわ。
人間の皮膚は狼人間に変化すると大きく変わるの。
でも銀はその化学的特性で皮膚や筋肉にアレルギー反応を引き起こすの。
“狼男”にとってそれは致命的 — と ウィニー は説明する。
— つまり…あいつ、皮膚炎でも持ってるってこと?
— まあ、そんな感じね。でも、彼はライカンに噛まれたわけじゃない。
つまり、純粋な狼人間でも第二世代でもない。
呪いで作られたもっと弱いバージョン。だから倒しやすかったのよ — と結論づける。
— 狼人間って一種類だけかと思ってた…
— オスニ、あなた、本当にオカルトのこと何も知らないのね? — ウィニー。
— セクレタ・スア・ノン・ケラレット・ミヒ(Secreta sua non celaret mihi)
(汝の秘密を我に明かせ) — ウィニー は泡を吹き目をひっくり返している男の顔に手を当てる。
— お前たちは皆、死ぬ…ルナレス、ヴァリス、そして偉大なる政府…
すべて、彼女たちの前に倒れる… — その瞬間、男の胸が爆発し、
大量の血が ウィニー の顔と体に降りかかる。
— 何だ、今のは…? — オスニ は後ずさる。
— 安全用の**逆呪**よ。
彼が話す前に死ぬように仕込まれてたの。
でも、あまり情報は持ってなかったと思うわ。
彼は私たちを殺すためだけに送られてきた — ウィニー は真剣な表情を浮かべる。
— どうしてわかるんだ? — オスニ は尋ねる。
— 彼の手には、私のブラウスの切れ端があったの。
あの日のあの魔女が関与しているに違いない。
本物の狼人間は、そう簡単に操れない。ライカンならなおさら。
でも、このように魔法で作られた狼人間は、創造主に完全に支配されるの。
(※ライカンとは、最も深い森や山に潜む秘匿された獣。
自然の存在ですらないという学説もある。
ウィンドストーンの太古より存在しているといわれる。)
— ウィニー、これは本当に危険になってきた。もっと慎重に行動しないと — オスニ は森の奥を見つめる。
— オスニ、急がないと。**ナイン・カウンシル(九人評議会)**の元へ行くわよ! — ウィニー は緊迫した声で言う。