表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ちょっと暗がりな異世界

深窓の姫君、独りでは生きられない

作者: 宇和マチカ

お読み頂き有難うございます。

ジャンルに悩みますね…。


 まあ、わたくしがそこなる令嬢を虐めたと仰るの。

 それは不可能ですわ、殿下。


 だって、わたくし。何ひとつこの手で動かせるものは御座いませんもの。

 殿下だってそうで御座いましょう?

 例えば、当家でお召し上がりでしたお茶。お湯を用意することも不可能ですし、茶器や茶葉を買う為に商人ひとり呼べません。そもそも、対価である金貨を稼いだことも御座いませんもの。


 身支度だって出来ませんわ。

 殿下だって、侍従無くしてはその眩く輝く御髪を一晩も保てませんし、その複雑な釦を付けられたお召し物ひとつ纏えませんわよね?

 数々の手を経て用意されたものに、感謝しなくては。


 「そういうことではない!」


 いえ、同じことですわ。


 我々貴族は、数多の者の手で飾り立てられないとここに立つ事すら不可能です。

 ですから、仕えてくれる彼等の行動に責任を持つのですわよ。

 そんな彼等に悪事を働かせようなどと思う筈も御座いません。感謝こそすれ、悪事に手を染めさせようなどど、とんでもない侮辱ですわ。


 ですから。


 その方を取り押さえたのは、正当なる行為です。

 何ですって? 彼女のドレスを故意に汚したと言いましたか。


「押さえつけて跪かせただろうが!」


 そうですね。

 取り押さえさせた結果、ドレスを汚させました。

 ですが、その前のことはご存知?


 高らかに皆様の前で、侮辱なさいましたのよ。

 ええ、開国の祖より受け継がれた誉れ高き血、我が公爵家! わたくしの家を詰られましたの。


「詐称するな、悪女が!」


 詐称とまで仰られますか?

 愛するものを無条件で信じる心は美しいですのね。

 ですが、悪行は罪。侮辱は卑劣な行為ですわよ。


「お前の家が身分を笠に着てあくどいのは事実だろう! 本当のことを言って何が悪い?」


 まあ、この期に及んでの御戯れですか? 

 貴族にとって体面は大事だと、教育を受けた3歳の子供でも存じておりますでしょう?


「コソコソと煩い!!」


 声高に叫ぶ方こそ、教育を疑いますわね。


 ねえ、そこの殿下の後ろで震えながら、ほくそ笑んでいる初対面の方。

 貴女、元平民だと仰いました? きっととても器用なのね。そのように顔を直ぐに見苦しく作れるのだから。

 可愛らしい? 鼻と喉を鳴らして可愛らしいと愛でられるのは、小動物くらいでしょう?


 まあ殿下のご趣味はお聞きするまでも有りませんわね。

 器用な方ですもの。きっと、その方はそのドレスを全て完璧に纏えるほど、身支度に長けているのかしら? 凄いわ。


 背中にある沢山の釦も、身動きできない程締められたコルセットの紐も。

 たくさんのピンを使う後頭部の結い上げも、全て独りでこなせるのね。


 まあ、おひとりではない? 何方が為さったの?

 ひとりでは着られない?

 貴族となったのだから、世話されて当たり前?


 では、何故平民としての身分を笠に着て容赦や寛容を願うのかしら。 男爵の庶子として世話を焼かれた、下級貴族の子女として此処にいるのではなくて? どの立場で、どの顔で殿下のお傍に侍っているのかしら? でも変ね。下級貴族なら、平民なら……最期の時は、どうなるかは知っている筈。

 あら、だんまりなの? 


 そもそも、殿下もご冗談が過ぎますわ。

 今年の春のことをお忘れ?

 傍を通っただけの、罪もない平民へのお仕打ちは覚えておられませんの?

 重い荷物を運んでいたのに、道を開けろと無茶を仰り、うっかり泥跳ねを上げてしまった平民をお忘れですか? 

 三十年前に廃止された残忍な鞭打ちを、よりによって棘付きの鞭で命じられたではありませんの。後日耳にして、気を失いかけましたわ。薬を届けさせましたけれど……そのお顔は、お忘れのようですね。

確か、『ご予定にもない城下のご視察』の明け方のお帰り際でしたわ。報告を受けております。


 服と名誉。

 汚されて怒りを覚えることに、何が違いますの?


「ひ、ひどい……。関係ないことばっか言って! あたし、謝って欲しいだけなのに……」

「この……悪女め! お前など、もう婚約者ではない!」


 ええ、ええ。此方も関係ないことばかり、聞き飽きましたわ。

 どれだけ語彙がないのです? どれだけ他責思考で被害者ぶるのです?


「だから、謝……? あれ? 何か、おかしくないですか? 床揺れて、頭が、え、何……。い、いた……」

「え? な、何だ……。痺れて……」


 やっとお気づきになられまして? お体は本当に頑丈なのね。平民として生きて居られる道をお選びになれば宜しかったのに。


「此処は、何処だ? 揺れる……暗い……、き、気味悪い化け物!?

何だお前……!」

「え、な、何……ここ……!? やだ、ひっ… ば、ばけ…」


 そうそう。頭に血が上りすぎると、眼の前がよく見えなくなるのですって。

 お互いに合わせて飾られたお衣装のお姿、今はどんな素敵に映るのかしら? 激昂すると、よく効くのですって。

 貴方がたが纏わされた髪飾りやお衣装に靴。

 ひとつひとつの役目は小さいけれど、比重を考え抜かれて配置されるもの。重なり合って貴方がたを飾り立て、蝕むこともあるもの。とても悪事とも取れない、些細なものでも。

 ああ、この夜会でのお食事はお口に合って?


 誰から齎されたか、覚えていらっしゃる? そう、沢山のね。

 わたくしは深窓育ち。独りでは、生きられないの。








飾り立てられるのも、地獄へ追いやるのも。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ