後日談ーⅳ
風を通すために開きっぱなしにしていた扉から、サンドラ様が入って来られた。
「サンドラ長官」
「ラグナル団長お久しぶりです。愚兄は足を引っ張ってはおりませんか」
王様にはタメ口で、ラグナル団長には丁寧な口調で会釈するサンドラ様に、わたしはなんとなく笑いが込み上げる。ユリゼラ様もそうなのか、繊手を口元にあてて微笑んでいらっしゃった。
「リベラトル様には、多方面においてご尽力いただいております」
「なにかお困りごとがありましたら、よい情報を流しますのでご相談ください」
サンドラ様には兄君が二人いらっしゃる。ご長男は領地で伯爵のお手伝いをしていて、ご次男は王立騎士団に所属しておいでだ。なんでも「籍を置いている」だけで、どちらかといえば宰相に近い地位におられるとか。残念ながら、わたしはまだお目にかかったことはないのだけど。
「オフィーリアは、もうお休みだな」
わたしの膝の上で、うとうとしてははっとするを繰り返していたオフィーリア様を見て、サンドラ様はクスッと笑い、そっと抱き上げる。オフィーリア様は安心したのか、きゅうっと首にしがみついて、意識を手放されたようだ。
「今日はずっとお話を?」
「はい。ご結婚なさるまでのことを伺ってました」
「ふーん……それはあれだな。ラグナル団長がもの申したくなるのも当然だな」
「サンドラ様も、やっぱり大変だったんですか?」
「まあ、あのときは。仕方ないとはいえ大変だった。そして言わせてもらうが、今も大変だ」
剣呑な雰囲気を見て取って、ハーシェル王がすいっと視線を外す。
「さて、我々はそろそろ失礼しよう、ラグナル。何やら風向きが変わってきたようだ」
言うが早いか、ハーシェル王は「ではまたな」とユリゼラ様の頬に口付けると、颯爽と出て行ってしまわれた。




