Ⅶ 新たなる王ーⅷ
ハーシェルは、早くに母を亡くした。しかし、後宮にいた妃の誰もが、優しくしてくれた。それは王位を脅かす危険がないとの認識も手伝っていただろうが、それでも。父の治世において、後宮は、穏やかだったのに。
がくりと膝をついたハーシェルは、「すまない……」と呟いた。
もはや、誰に向けた謝罪かもわからなかった。ただひたすらに、すべての惨事に間に合えなかったことが、どうにかする力のなかった自分が、悔しい。
傍にいたユリゼラが、ハーシェルの頭を包むように抱きしめる。
「そろそろ、お泣きになっても大丈夫です」
労りの籠められた声に、ハーシェルはユリゼラを抱きしめた。
この血臭漂う静謐の中で、唯一の、命のぬくもり。
「この後宮は、私が好きに片付けてもよろしいですか?」
ユリゼラに強く顔を押しつけたまま、ハーシェルはただ首だけを縦に振った。
これからは、ユリゼラだけが住む場所だ。
整えて迎え入れてやることは出来なかった分、ユリゼラが好きにしてくれたら、ハーシェルも気持ちが軽くなる。
「これからやらなくてはならないことは、山積しています。けれどその前に、心を自分で潰してはならないと……父に、言われたことがあります」
ハーシェルの頭を、ぎこちなく撫でながら、ユリゼラが言った。
「私は、ハーシェル様のお気持ちを、支えたい」
張りつめていた気持ちが、ようやく少し、緩むのを感じた。
涙など見せてはならぬと、幼少期より厳しく教えられてきた。
父を刺し貫いても、胸は痛むが、驚くほど涙腺が反応しなかったことに、人として自分は大丈夫なのかと思った。
しかし今、ユリゼラの声が、耳に届く。
心に、届く。
ただ一心に自分に寄り添おうと心を砕いてくれる姿が、愛おしい。
応えようとしてくれる女性に、何も与えられない自分の情けなさが、ハーシェルの感情を人らしく動かす契機となり。
ハーシェルはユリゼラが甘えさせてくれるままに、静かに嗚咽を漏らした。
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