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Ⅶ 新たなる王ーⅶ

 簡潔にそれだけ言うとハーシェルは立ち上がり、無造作に王冠を元の位置に戻すと、整列した騎士たちを残したまま、ユリゼラの手を引いて玉座の間を抜けた。


 ハーシェルは、ユリゼラが小走りになるほどの速さでずんずん歩いて行く。


 いくつもの長い廊下を抜け、やがて建物の装飾が繊細なものに変わる頃、ハーシェルは足を止めた。


「ここから先が、後宮だ」

 ここにたどり着くまで、誰にも会わなかった。

 気配すら感じない。

 この、広く大きな城には今、本当に人がいない。


 ドアノブを握るハーシェルの手が震えているのに気がつき、ユリゼラはそっと手を添える。


 旅をしている間に、たくさんのことを聞いた。


 先王には、十名ほどの妃がいたこと。ハーシェルの母を含む四名は、すでに病などで亡くなり、六名が後宮にいたが、いずれも殺されてしまったこと。しかし後宮は手つかずになっていること、などを。


 ハーシェルは寄り添おうとするユリゼラに微笑むと、扉を開けた。   


 二人して思わず鼻と口元を押さえてしまったほど、異臭がした。


 中は薄暗く、扉を開け放したまま二人は中に足を踏み入れる。


「これは……」

 ユリゼラがつぶやき、ハーシェルも足を止めた。


 ここは、前王妃が寝室として使っていた場所だ。しかし絨毯にも寝台にも、赤黒く変色したおびただしい血の痕が、生々しく残っている。

 ハーシェルは中途半端に閉められたカーテンを開け、バルコニーに出られる両開きの広い窓を開け放つ。外からの風にさらわれ、錆びた臭いがやわらいだ。


 光が差し込んで、部屋を見回すと。


 壁には無数の傷があり、天蓋の幕も切り裂かれて無惨に垂れ下がっている。


 剣を振り回したあとだ。


 そして部屋の至るところに、血痕が見受けられた。

 恐らく、ここで亡くなったのは、王妃だけではない。侍女や女官たちも、無傷ではいられなかったのだろう。


「死体だけを、片付けたって感じだな」

 ハーシェルの言葉に、ユリゼラが頷く。


 ハーシェルはユリゼラの手を引き、次々と部屋を回ったが、どの部屋も、大差はなかった。


 これは本当に、父がやったことなのか。


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