Ⅵ 凱旋ーⅹⅹⅲ
「俺がお目にかかったのは、半月前が最後だ。だが、突き止めたことはいろいろとある。陛下が毎日服用していた薬に、ミックルをはじめとする薬草が混ぜられていた。あれは組み合わせ次第で高揚感も得られるが、幻覚作用や皮膚病などを引き起こすものらしい。それを流していたのは、フィルセインだ」
「証拠が、あるのか」
「コルネリア后妃の侍女がつなぎだった。コルネリア様から陛下に健康維持という名目で贈られていたが、侍女がフィルセインの家令を通じて受け取っていたものだ。侍女は、フィルセインが王都に留まっているときの相手だったと言っている」
「本人が証言したのか」
「ああ。しかし一昨日、地下牢で自害した」
やりきれない気分で、ハーシェルは奥歯を噛みしめる。話に出てくる者皆、ハーシェルははっきりと顔を思い浮かべることが出来るほどに、「知り合い」だ。
「それで、父上が待っているというのは、どういうことだ」
「時折、正気に戻られる。とても短い間だがな。俺は半月前、運よくそこに居合わせた。……陛下は、自分の子供たちが死んだことを嘆いていた。そして、お前の行方を案じてもいた」
そうして目を伏せると、そのときのことを思い出したのか、眉間にしわを寄せて、呼吸を整えた。
「そしてハーシェルに伝えてくれと言われた。迷うな、ためらうなと。もう、終わらせてくれと、懇願されたんだ」
サンドラも、同じことを言われたと言っていた。ならばそれは、父の本心なのだろうと、ハーシェルは納得する。
自分が正気でない間に、息子を追いやり、みずからの手で寵妃を殺害したのだ。
あの優しい父を、それほどまでに変えてしまう薬……
「終わらせる。俺は、そのために戻ってきたんだ」
迷うな。
ためらうな。
厳しさを含んだ父の声が、聴こえる気がする。
甘ったれて育ってきた自分。父の目にも、不足ばかりだろう。
しかし。
「俺がたどり着けるように、手を貸してくれ」
そこにいた全員が、力強く頷いた。




