Ⅵ 凱旋ーⅹⅸ
そのときのことを思い出したのか、たおやかな手をそっとこめかみに当てる。
「けれどセルシアは、大地と会話が可能だと聞き及んでおります。私などとは、力の強さが桁違いなのでしょう」
そう答えたユリゼラに、マルヴィンはうっとりと見とれていた。ユリゼラの一挙手一投足が、美しくまばゆいのだろうことは、この場にいる誰もが想像とともに理解出来る。
「セルシアが大地と会話してるところとか、見たことないのか?」
ハーシェルの問いに、ガゼルは「ないな」と即答する。
「少なくとも俺が長官になってから見たことはない。ほんっと静かな御仁だったからな。独り言とかも聞いたことがないんだ」
「サンドラは? 副官も傍にいる機会は多いんだろ?」
「わたしもない。書類上のことで少し話をする程度で、祈りの場にいたことはないし。基本的には騎士より補佐官たちが、公的にも私的にも一番近く生活してるかもな」
サンドラの答えに、マルヴィンは手元のカップをぐるぐると回して、冷えた指先をあたためるようにしながら、濃く煮出した茶を口にする。
「俺、なんも知らないんだなー。自分が生きてる世界のことなのに」
「多くの者がそうだろう。気にしなくても生きていける世であるのが、本来理想なんじゃないのか」
答えるハーシェルに、マルヴィンは「そうだけどさ」と腑に落ちない返答をする。
「俺は、この世界ってのはこう……もっと人間に寛容なんだと思ってたんだ。そんな、呪いみたいな約束があるほど憎まれてるなんて知らなかった。人の願いを、単純に叶えてくれるモンだと思ってた。……なんか、ショックだな。疎まれてたなんてのは」
「疎まれて……は、少し、違うと思います」
考えるように、言葉を選ぶように、ユリゼラがやんわりと否定する。
「人間性を失うなと、いうことではないかと」
「人間性?」
こくりと頷き、マルヴィンを見る。




