Ⅵ 凱旋ーⅹⅵ
「俺の本当の名前はハーシェルだ。マルヴィンに会ったあの日、城を出たところだった。皇太子が降ろされて、次に立てる王についての争いが始まっていた。俺はその争いを少しでも小さくしようと思って、城を出たんだ。王位に就く気はないという、意思表示のつもりもあった」
放心したように聞いているマルヴィンに、ハーシェルは言う。
「だが、兄も姉も、皆殺された。父上の心神喪失も、もう見過ごせないところまで来ている。だから俺は、父を倒して、王位に就く」
何も言わずに固まっていたマルヴィンは、やがてへなへなとそこに腰を下ろした。
「ハーシェルっていや、フィルセインが探してるお尋ね王子じゃねえか……」
「だから、知らなかったことにしろ」
「いや、無理だろ」
泣きそうな目でハーシェルを睨んだマルヴィンだったが、すぐに肩を落としてチラリとガゼルたちを見遣った。
「長官が護衛してたのは、姫さんじゃなくてこいつだったのか」
「まとめてだな。ユリゼラ殿は、界王妃になる方だ」
「なに……?」
「こんなに器量と頭脳が備わった姫も珍しいからな。ハーシェルの女を見る目が確かで安心した」
戸惑うマルヴィンに、サンドラが気安い口調で言う。
「俺はてっきり、あんたと姫さんが出来てるんだとばかり思ってた」
移動中、ユリゼラはずっとサンドラと会話を愉しんでいた。傍目から見ると、そのように見えたのは仕方がないだろう。ユリゼラは、「レフレヴィー様」とサンドラのことを家名で呼ぶし、騎士服を着込んだ外見からは、サンドラが女性であるとは判断しにくい。
「悪いが、わたしは女だ」
「へ?!」
目を丸くしたマルヴィンは、「あんたが、かの女騎士か……」とまじまじとサンドラを見つめた。声も低いし、女性が好みそうな綺麗な男、くらいにしか思っていなかった。
「王都では、女騎士に焦がれて道ならぬ恋を覚える姫さんたちがいるって、吟遊詩人が歌ってるくらいだから、どんなんだと思ってたんだが……」
なるほど、と得心する。
「その吟遊詩人てのは誰だ? よく覚えておきたいな」
「いや、それは……」




