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Ⅵ 凱旋ーⅹⅴ

 レア・ミネルウァを統治する者に与えられたのは、約束を示す王冠。王冠は約束の血統の頭上でしか、その姿を保たない。偽りの王ならば土塊(つちくれ)に還る。人が争わぬ世界であるように、たった一つの血統を守ること。守られる者は、人心の健やかなること、安寧であることに努めること。世界と人をつなぐ者は、日々約束が違わぬことを報告すること


 祈りが聞こえる内は、眠りにつこう。

 祈りが途絶え、世界を汚すそのときは。




「我はすべてを滅ぼさん」


 ユリゼラの静かな語り口に、マルヴィンは息を呑んだ。


「じゃあ……どんなにいいやつがいても、王の血が流れてなかったら、王様にはなれないのか」

「ええ。そうなります」


「今の王様も大概だが、フィルセインが王を倒したところで、そいつが王になってもあの日常が戻ってくるとも思えねえ」

 木々の間から見えるかすかな星を仰ぎ、はあっと大きく息をつく。


「俺……この街に入ってから、矢が刺さったまま放置されてる死体を、いくつも見た。公爵の兵だってのに、お世辞にも品がいいとは言えない奴らもうろうろしていて……こんなやつらに姫さん見られたら危ないことにしかならないと思って、とにかく街を抜けたんだ」


「そうでしたの……」

 ユリゼラが痛ましそうに目を伏せる。目をつけられることもだが、その光景を見せないようにという配慮も、含まれていることは明らかだ。


「王族が臣下に(くだ)るのってたくさんいるんだろ? もっとマシなのっていないのか? 頭悪いから難しいことはわからんが、俺は元の生活が好きなんだ。好きに流れて、好きに生きていける世界に、戻して欲しい」


「戻すさ」

 マルヴィンの言葉に、ガゼルが軽い調子で言う。

「そいつが取り戻す」

 そう言って、まっすぐにハーシェルを指さした。


「お前、やっぱそういう貴族だったのか」

 念のため、この旅でもハーシェルは「ダリ」のままで通していた。自分の身分を、マルヴィンにも明かしてはいなかった。


「ああ。嘘ついてて悪いが、これでも王子なんだ」

「はあ?!」

 立ち上がって驚くマルヴィンを、ハーシェルは座ったまま見上げて言った。


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