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Ⅵ 凱旋ーⅻ

「もうすぐ検問だ。荷の振りしてくれ」

 マルヴィンの声に、ハーシェル、ユリゼラ、ガゼル、サンドラは、それぞれ用意された箱や壺に潜り込んだ。


 男爵と話をつけた二日後、ハーシェルはガゼルとサンドラを伴い、シンに隊を任せてレジエントを発った。


 ロムニア男爵領を抜けたその先が、フィルセインの手に落ちたという話を聞き、ハーシェルはマルヴィンにつなぎをつけ、自分たちを最速で王都まで送るよう依頼したのだ。


 マルヴィンはユリゼラの顔をみて了解し、また、ガゼルのことも新聞などで顔を認識していたことから事の重大さを敏感に感じ取ったらしく、特に詳細を必要とせずに商隊を置いて一人で引き受けてくれた。


 ユリゼラは今、サンドラと同じく男装しているが、単に「女性が男物を着ている」状態にしかなっていない。性別を誤魔化すのは難しかったが、ユリゼラは初めての身軽な格好を気に入っているようだった。


 馬車が止められ、各々が息を呑む。

 何人かが乗り込み、無作為に箱の蓋を開けるなどして中を確認しているのが察された。しばらくすると、「行っていい」という声がして、馬車が動き始める。ハーシェルたちはマルヴィンが次に馬車を止めるまで、動くなと言われていた。フィルセインの手に落ちた土地だ。あまり暢気(のんき)にもしていられない。


 しかし検問を抜けたというのに、いつまでたってもマルヴィンから声はかからない。それぞれが身を潜めているものは、それほど音を遮断する材質ではないのに、賑わいらしいざわめきひとつ聞こえなかった。


 ただひたすら、マルヴィンは一定の速度を保つようにして、荷車の馭者(ぎょしゃ)台で馬を駆っている。


 ずいぶんと走ってから、マルヴィンは馬を止めた。

「いいぞ、出てきて」

 心なしか潜めた声で言われ、ハーシェルは細工された箱の底から抜け出す。

 そこはすでに街を抜けた森の中で、一人で相当な距離を走ってくれたんだなと、過ぎて来た街道を見遣った。


「ずいぶんと静かだったな」


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