Ⅵ 凱旋ーⅶ
頷くと、ハーシェルは特に力んだ様子もなく、話を続ける。
「この事態を収拾するために、俺は王都に戻り、まず父を討つ」
ユリゼラには、何も言えなかった。そんなに重い覚悟をさらりと言ってのけるハーシェルに、かけられる言葉など見つけられない。
「王になるのを……見ていてくれないか。俺が、『王』であることから、逃げ出さないように」
「逃げ出したい、のですか?」
「逃げ出したい」
情けないこともさらけ出すハーシェルは、ユリゼラに微笑んだ。
「俺は王子としては出来損ないで、王位など考えたこともなかったんだ。だから正直、俺に何か出来ることがあるとも思えない。でももう、逃げていられない」
情けない内容を紡いでいるのに、ハーシェルの瞳は凪いでいる。
本当に、覚悟を決めたのだと、ユリゼラにもわかった。
「こんなことになって自分が無力だと嘆くなら、手に入れられるものは全部手に入れて、救えるだけのものを救いたいと、思ったんだ。そして出来れば、それをユリゼラ殿に見ていて欲しい」
そう言ってユリゼラを見つめる目は、今までのどの瞬間よりも優しい。
「逢いたいときには逢いに行くし、具合が悪ければ抱えていく。だから……俺の傍に、居てもらえないだろうか」
ハーシェルの事情が見えた今、ユリゼラにも自分の立場がどういったものになるかはわかった。しかし、それならなおのこと。
「私には、ハーシェル様のお役に立てるようなうしろ盾など、ございませんよ?」
「そんなものはいらない。俺は、ユリゼラ殿の気持ちが聞きたい」
血生臭い話をしておいて、これからそういった場所に立つと宣言しているのに、ハーシェルのユリゼラに対する想いだけが、馬鹿みたいに率直だった。
ユリゼラは泣きそうになるのをこらえ、懸命に笑顔を作る。
「でしたら、お連れください」
初めて、恋をした。
素性はわからなくても、「あなた」に。
「私はダリ様でもハーシェル様でも……あなたの、傍にいたい」
ユリゼラの答えに、ハーシェルの顔に満面の笑みが浮かぶ。
「感謝、する」
ユリゼラの手を取ると、ハーシェルはその甲に、そっと口付けた。
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