Ⅵ 凱旋ーⅲ
「お父様は、お怪我は?」
「ああ、わたしは軽い打撲程度なんだが……レメディが足を骨折してな」
母が一緒にいないことが不思議だったユリゼラは、息を詰める。
今日、両親はトリアンナという隣の街に話し合いに出て行っていたのだ。父の姿しかないことに、不安を覚えないではなかった。
「いや、安心してくれ。なんというか……レメディは応急処置を自分ですると、それから旺盛に指揮を執り始めてだな。わたしは惚れ直したよ」
半ばあきれたように、笑みすら浮かべてそう言う父に、ユリゼラは目を丸くする。
「お元気、なのですか」
「元気も元気だ。とりあえず、まわりの者たちの救出作業が終わったら、『あなたは城に戻って指示をなさってください』と追い出された。お前の兄もいたからな。この場はお任せくださいと言われたら、留まるなど出来んだろう」
「ああ、お兄様もご無事で。では、トリアンナのことは、大丈夫ですわね」
男爵は頷き、ユリゼラの頬を撫でた。
「そして戻って来てみれば、お前が立派に救護所を回していた。正直驚いたよ。ユリゼラが賢いことはわかっていたが、実際に動けるかどうかは別の話だからな」
「全員を……助けられた訳ではありません」
目を伏せたユリゼラに、男爵は笑った。
「こんな事態だ。我々は出来ることをやるしかない。その出来ることを、お前は最大限、やってのけている。これからやらなくてはならないことがまだまだ山積している。ユリゼラにも、手伝って欲しい。その前に、心を自分で潰してはいけないよ」
こんなときでも優しい父に、ユリゼラは胸が熱くなる。
父だって、領主としてこの惨事に心を痛めているはずだが、悲しむより、悔やむより先に、ユリゼラをねぎらってくれた。それが、今のユリゼラの心をあたたかくしてくれる。
「お前はもう、お休み。明日、また動いてもらわなくてはならないからな。皆を助けるために、お休み」
父のふっくらとした手が、ユリゼラの両手をあたためる。
ユリゼラは頷いて、ルイが用意してくれたあたたかいミルクを飲むと、毛布にくるまった。
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