Ⅴ ハーシェルーⅹⅴ
クレイセスもサンドラも、母は王の妹だ。王からすれば甥と姪。扱いは、ハーシェルと変わらないように見えた。二人が早くにセルシア騎士団の騎士章を取ったときには、特に感心していたのを覚えている。
「お前を焚き付けたいとかいう訳じゃない。ただのわたしの感想として聞いてくれ」
頷くと、サンドラは夜空を見上げて言った。
「クレイセスは、騎士団長に就任してから、陛下と顔を合わせることも多くなったと言っていた。でも、就任の挨拶に行ったときにはすでに、お変わりになられた、と言ってたんだ」
クレイセスが騎士団長に就任したのは、半年ほど前のことだ。前任の団長はセルシアの寝所を襲った賊と対峙したときに深手を負い、剣を握る腕をなくした。それにより辞職を申し出、選挙が行われてクレイセスが就任したのだ。
セルシアの騎士団長は常駐騎士たちによる投票で決まる。本来ならセルシアの側近として五名から十名ほどいる「近衛騎士」の誰かが選ばれるのだが、王の様子が変わりだした頃からセルシアの周辺には刺客が放たれるようになり、「近衛騎士」たちのほとんどが殺されるか、重い傷を負っていた。
二十代という若さでクレイセスが選抜されたのも、今時分ならではの結果だ。セルシアもそれを承認し、新体制が整えられた。
「静かな話し方をする人だっただろ、伯父上は。でも、苛ついたように早口で話されるようになったり、ときにはそれまでは気になさらなかった、些細なことで激昂されることもあったそうだ。わたしを可愛がってくださった伯父上の姿と、思えなくてな? クレイセスも、困惑していた」
そしてうつむくと、サンドラは決意するように、少し大きく息をついた。
「お目にかかったとき、伯父上は、わたしがわからなかったんだ」
「え……?」




