Ⅴ ハーシェルーⅹⅳ
「俺は……補佐くらいは出来るかもしれないが、そんな器じゃないんだ。兄上たちのように、『もしかすると』など、考えたことがない。それに……父上が、なぜこんなにも変わってしまったのか、わからないんだ。『陛下が』って、報告を聞くとき、別人の話を聞いているように思っていた。俺が知っている父上じゃない。叱られてばかりだったが、結局、俺が好きに出来るように取り計らってくれた。馬鹿な息子にも甘い人なんだ。王位に就いてからの父をすべて知ってる訳じゃない。けど、民を虐げるような政治は執ってなかった。妃たちにもなるべく公平に接していたことも、俺は知ってる。そんな人が……なんで」
気を遣いすぎるのではと、子供心に思っていたこともある。大人になるにつれ、絶対権力者とはいえ、ままならないこともあるのだと理解は出来たが、それでも。父は、もう少し我を通しても、良かったのではないかと。
「それに……俺が王になるということは、俺は、父上を殺さなくてはならないんだろう?」
レア・ミネルウァの王は、簒奪すれば誰もがなれる訳ではない。王冠は、「王の血筋」の者の上にしか、形を保たないのだ。それ以外の者が王になった場合、形を保てず、融けて土塊になってしまう。
ガゼルが、王都に戻る気はないかと聞いたとき。
その言葉が示唆する内容に、思考が停止した。
サンドラは何も言わず、しばらくハーシェルを見つめていたが、少しして口を開いた。
「お前、最後に陛下に会ったの、いつだ?」
「最後は……もう、三月ほど前、だな。人の声を聞くのが、煩わしそうだった。エリゼル兄上の処遇について、俺なりに意見をしたつもりだったが……そもそも、父上の目に、俺は映っていないように思えた」
「そうか」
サンドラは言い、「わたしはここに来る前に、クレイセスと一緒に、伯父上にお会いした」と、少し、迷うような口調で続けた。




