Ⅴ ハーシェルーⅹⅲ
「あのまま王都にいたら、お前も無事では済まなかったかもしれないからな」
「……俺が逃げなかったら」
「何も変わらないさ」
ハーシェルの言葉を遮り、サンドラはまっすぐな瞳でそう言った。
「お前が残っていたとしても、何も変わらなかった。ただ、ハーシェルという犠牲者が一人、増えていただけだ」
それよりは。
生きていて良かった。
疲れた顔で微笑むサンドラに、ハーシェルは問う。
「言わないのか?」
「何を」
「都に戻れって」
「言って欲しいのか?」
笑ったサンドラに、ハーシェルはまたうなだれた。
「いや……ダメだな、俺は」
背中ならいくらでも押してくれるだろう。けれど、判断を委ねることは違う。
自分で、決めなくてはならないのだ。
「ちょっとだけ、愚痴を言わせてくれ」
言うと、遠くで揺れる松明の光を映した翡翠の瞳が、視線で先を促す。
「考えたこともなかったんだ。俺は。だって五番目だぞ? 病や事故などがあっても、一人か二人、亡くなることがあるかもしれないが、それでも俺にはまだ遠い。おまけに、兄上たちは出来も良かった。俺は父上に叱られることはあっても、兄上たちのように褒められた記憶などない」
言っていて情けなくなるが、これは事実だ。




