Ⅴ ハーシェルーⅻ
「サンドラにも、話があるのか?」
「なんのだ」
「王位の」
「……シンは、そんなことまで話したのか。意外におしゃべりだな、あいつ」
渋面を作るサンドラに、ハーシェルは訊く。
「実際、どうなってるんだ。現状は」
「フィルセインを支持しない貴族は、アリアロス家の正当性を主張している。クレイセスが騎士団長として手腕を見せていることもあって、余計にな。だが、当の本人であるクレイセスは、王位に興味がない。そもそも、ハーシェルがどこかで立つと信じている」
「兄上も姉上も……本当に、亡くなったのか」
「ああ。……わたしの、母も」
サンドラの言葉に、ハーシェルは彼女を凝視する。
「フィルセインは恐らく、王位に近い者を排除しているんだろう。まさか母上にまで手が及ぶとは思っていなかった。村の祭りに参加した帰りに殺されたと、父上からの手紙にあった」
「すまない……」
「お前が謝る必要はない。ついでに言っておくが、わたしも王位には興味がない。縛られることが嫌でこんな現状なのに、王様業など務まる訳がないだろう。わたしを擁立したい人間は、野心があるんだと思う。王冠が血の約束なら、王は傀儡でいい、実権を握りたいと、そういう話だ」
静かにそう言ったサンドラに、ハーシェルは息苦しささえ覚えてうなだれる。
サンドラの故郷はここよりもずっとずっと北だ。この訃報がサンドラの手に届くまで、どれほどの日数が経っていただろう。
サンドラの母は、ハーシェルにとっては叔母にあたる。あまり会ったことはないが、父によれば自由奔放な性格で、サンドラの父であるレフレヴィー伯爵に想いを寄せて、押しかけるように嫁いだのだとか。
恋愛の経緯はともかく、自由で奔放な様子は、サンドラにしっかりと受け継がれていると思う。
「お前が、生きていて良かった」
ふっと笑ったサンドラに、ハーシェルは顔を上げる。




