Ⅴ ハーシェルーⅵ
呆然としているハーシェルだったが、ばたん! と開かれたユリゼラの部屋の扉に、二人ははっとして視線を向ける。中から血相を変えたユリゼラが飛び出してきて叫んだ。
「地震が……! 大きな地震が来ます! みんな屋敷から出て……!」
「姫?」
言うが早いか、ユリゼラは走り出す。ハーシェルもシンとともにあとを追った。
「ルイ! 皆を逃がして! 大きな地震が来ます。屋敷の外に!」
「お嬢様?」
「早く!」
階下で捕まえた執事にもそれだけ言うと、とにかくユリゼラは皆を屋敷の外に追い出して回る。執事も急いで、屋敷中の者に裏庭に出るよう指示を出している。
「早く! ハーシェル様もシン様も急いで!」
まるで乱心したかにも見えるユリゼラのすることを見守っていた二人だが、必死の顔で袖を掴まれ、ハーシェルは固まる。
そこに。
どん!
と突き上げるような音とともに、大きく足許が揺れた。
問いただすよりも先に、ハーシェルはユリゼラを抱き上げ、窓を割って外に飛び出した。
どどどどどどど……と大きな揺れが襲い、目の前の屋敷が、古びていたのだろう場所から崩れていく。またドン! という大地の音に、いくつもの浅い亀裂が地面を走った。
「これは……っ」
経験したことのない規模の地震に、ハーシェルもシンも、なす術もなくただ膝をついて周囲を見渡す。ほどなくして、地震は揺れをおさめた。
「この地震は、一体……」
「セルシアが……いないからです」
「え?」
腕の中のユリゼラが、存外落ち着いた声で答えた。
「ここ数日、光響が、起きていません。それに、もう長いこと、セルシア様の祈りの声が、聴こえないんです」
ハーシェルが腕を緩めると、ユリゼラはゆっくりと立ち上がり、あたりを見回した。




