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Ⅴ ハーシェルーⅲ

 ハーシェルは踵を返すと、男爵の城へと戻る。朝食の間はユリゼラが外に出ることはない。その後も中庭や書斎にいることが多く、散歩を希望するのも午後が多い。手のかからない警護対象者はありがたいが、彼女の体が強くなく、そういったあまりにも内向的な生活が当たり前であることが、少し哀れでもあった。


城に戻ると、ユリゼラの部屋の窓に、(たたず)む彼女が見えた。


 部屋の近くで警護に当たるかと、急いで城内に入る。今日はまだ、滞在中の貴族なども数名いて、ハーシェルとしてはあまりうろつきたくはない。しかしガゼルとサンドラの話からしても、警戒を(おこた)る訳にはいかない状況だ。


 ハーシェルはいつものように、ユリゼラの部屋に一番近い廊下に陣取り、腰をおろした。ここはユリゼラがどこかへ行こうとすれば必ず通るし、また部屋の中で異常があったとしても、すぐに飛び込める場所だ。扉の前に居続けるのは、中の様子を変に窺っているようで居心地が悪い。


(まあ、俺を知っていそうな奴はいなかったけど)


 ユリゼラの相手なだけあり、まだ若い男がほとんどで、「いずれ」爵位が譲られるといった貴族たちだった。それに、公侯爵位の姿はなかったし。人の顔と背景を覚えるのは、ハーシェルは苦ではないだけに、今滞在中の人間に自分の素性がばれることはほぼ皆無と判断していた。しかし。


(ユリゼラが)

 気が付いたのではないか……ふと、そんな予感が頭をよぎった。


 もの言いたげだった、今朝の視線を思い返す。彼女が手にしていたのは、表紙をあとからつけたらしい(つづり)だったが、何を見ていたのか。


「ハーシェル」


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