Ⅳ ユリゼラーⅴ
(正体が知れてしまったら)
(消えてしまうの……?)
彼の部屋には、いつもたくさんの地図が散らばっていると、ルイから聞いた。正体を知られてしまったとしたら。彼は、いずれともわからない土地に、また流れて行ってしまうのだろうか。
「ユリゼラ殿?」
ダリの声に、ユリゼラは反射的に綴を閉じる。
「朝食にもお見えにならないと、奥様が探しておいででしたよ」
「あ……ごめんなさい。すぐに参ります」
自分がどこにいるか、ダリはすぐに見つけてしまう。
今日も相変わらず涼しい顔で、屈託のない笑顔を向けて手を差し出すダリに、ユリゼラの胸は訳もない息苦しさに襲われた。
「どうかなさいましたか」
怪訝そうな彼に黙って首を振り、ユリゼラは差し出された手にそっと自分の手を載せる。
武骨な手は、ユリゼラよりもずっと大きく、日焼けしていて。何度も救ってくれた力強さに、いまさらのように頬が上気するのを感じた。
そんなことには微塵も気付かない様子のダリに緩やかにエスコートされ、食事の間に通されると、彼はすぐに姿を消してしまった。
(私────……)
傍にいて欲しい。
そんな感情なのだと、ユリゼラはようやく自分の気持ちが示していることを理解した。




