Ⅳ ユリゼラーⅳ
最も王位からは遠いとされる彼はしかし、才気煥発と評されていた。どのように政治に関わっていくのか、将来が楽しみな王子として評判は悪くない。ただ、皇太子も健康で闊達な青年であり、ほかにも二人、優秀な兄がいるため、ハーシェルが記事として取り上げられることはほとんどない。
ただ臥せっていることが多いユリゼラは、家にある書物は読み飽きてしまうほどに読み込んでおり、二日に一度の新聞が、「新しい」読みものだった。それを隅から隅まで読み、なんとなく記憶していた。
(ハーシェル王子なら)
かすかな記憶を頼りに、さらに前年の記事を探して目を通す。
そこにはセルシア院で剣術に打ち込む記事があり、同時に腕前はあっても、王族であることからセルシア院での騎士章が授与されることがないことも、記されていた。
だから、と、ユリゼラの中で繋がっていく。あんなに強いのに、騎士ではないのだ。
長官たち二人を呼び捨てられる傭兵など、考えてみれば不自然だ。王子だから、彼らを呼び捨て、「お前」呼ばわりすることが許されているのだ。そして彼が王子だとすれば、時折発される威圧感も納得できる。
(確かめて、みたい)
でも、どうやって?
そして、知ったところで、どうしようというのだ。
今、王の乱心の所為で政治的機能は失われ、セルシアが代行の業務を行っていると聞く。本来なら王妃が担うはずだが、王妃の行方は、長らく公表されていない。一部の貴族の中では、王妃はすでに殺されたのではと噂されていた。
王都の「今」の情報が入って来ることはほとんどない。どんなに早くても、二、三日遅れがある。それに、新聞はもちろんのこと、政治の中枢に食い込んでいない男爵では、中央の実態を知ることは難しい。
だが、父がどこかで彼を見たことがあるような気がすると言っていた。王宮の式典なら、王子は必ず出席する。貴族の末席とはいえ、拝謁の機会はあったはずだ。だからきっと。
(間違いない)
知ったとしても、ユリゼラがなんとか出来るようなことではないかもしれない。もし本当に彼がハーシェル王子なら、伴も連れず、素性も隠して護衛などをしているには理由があるのだろうから。ただわがままに家出をしてきたようには到底見えないし、彼の性格を知れば知るほど、ありえないとすら思える。
ユリゼラの推測が過ぎるにしても、方向は間違っていないという、不思議な確信があった。




