Ⅳ ユリゼラーⅲ
「さあ。そろそろ、お戻りになったほうがいい」
ユリゼラは素直に頷き、中へと戻って行く。
(俺、こんなに馬鹿だったかな)
想いを寄せたところで、それを告げることも許されないのに。
王子のままだったら、出会えなかった。男爵令嬢では、娶ることも困難だ。理由ならいくらでも思いつく。
……本来の立場なら。
(今のほうが)
(もっと難しいのに)
男爵の末の姫。しかし姉姫は商人に嫁いだものもいる。なら、家督とは関係のないユリゼラの嫁ぐ先は、「ダリ」なら許されるのだろうか。
ぼんやりとそんなことを考え、ハーシェルは自嘲した。
(どうなるかわからない)
ハーシェル自身が、いつ王の手先に殺されるとも限らないのだ。ユリゼラを愛しいと思うのならなおのこと、巻き込むことをしてはならない。
広間でガゼルやサンドラと話をしているユリゼラは楽しそうで……自分はその中に入っていく資格が失われていることを、ハーシェルは痛感した。
*◇*◇*◇*
(きっと、そう)
ユリゼラは目覚めて、ぼんやりと外を見ながら昨夜のことを思った。
あんなに華々しいパーティーは初めてで、誰もが同じに見えた多くの貴族たちと機械的に挨拶をこなし、明るく煌びやかな空間で多くを過ごしたのに、はっきりと胸に刻まれたのは、中庭の時間だった。遠くから聞こえる曲に合わせて踊った、星明かりに照らされたそれは、一番幸せな時間だった。
優しい瞳に見つめられて、ユリゼラは〝ときめいて〟いた。
そして、思い出したのだ。彼を、「何で」見たのかを。
ベッドから起き出し、着替えて書斎に向かう。
気の所為であって欲しいと思いながら、ダリの所作は、教養は、知識は、深すぎた。もちろん、平民の中にも優秀な者はいる。しかし。
綴じられた新聞をめくり、ユリゼラの指は震えた。
「────っ」
ハーシェル・ハリア=レア・ミネルウァ。
「やっぱり……」
毎年、王の生誕祭には五人の子供たちの消息が載る。今年は生誕祭そのものが行われておらず、王子、王女の様子はわからない。
これは去年のものだが、ユリゼラはその肖像を、ゆっくりと指で撫でた。
彼は、王の末子で、第四王子。
「ハーシェル、王子……」




