Ⅲ 王都の消息ーⅸ
「そうですわね。でもあんなに綺麗な方に手を取られたら、ドキドキして動けなくなってしまいそう。ステップは覚えているつもりですけれど、いくつも飛ばしてしまいそうですわ」
「そうですか? 女性は皆、ああいった美形が好きなのかと思っておりましたが」
王都にいるクレイセスとクロシェを思い浮かべ、恐ろしいくらいの熱烈さでもって迫られていた彼らは、むしろ哀れだったことを思い出す。
「まあ……レフレヴィ―副官のお姿は確かに素敵ですわ。でも出来れば、私と打ち解けて、たくさん笑ってくださる方のほうが、私はときめくかもしれません」
「なるほど」
ゆっくりと歩きながらまわりの景色を楽しみ、時折話しながら、二人は屋敷に戻る。
「あの……私、ちょっと思い出したことがあるのですが……」
「なにか、外にご用事でも?」
部屋に入ろうとしたユリゼラが思い詰めたように振り向いたのに、ハーシェルは優しく尋ねる。しかし何かを言おうと開きかけた口は何も発することなく、「ごめんなさい。なんでもないのです」と言うと、散策に付き合ってくれた礼を述べて部屋に入ってしまった。
(ひょっとして)
(気が、ついた……?)
扉を見つめ、ハーシェルはしばし硬直する。
(まさか、な)
誰一人、ハーシェルが「ダリ」という名の旅人と疑わない。男爵夫妻は最初こそ訝しむ様子もあったが、セルシア院で培った粗野な話し方や態度から、今では「考えすぎね」という結論に至っている様子だ。使用人たちともすっかり打ち解け、手が空いているときは手伝ったりもする。ユリゼラに疑われる行動など、した覚えはない。
ハーシェルは部屋に戻り、ベッドにひっくり返った。
ガゼルとサンドラがフィルセインの手先を捕縛するのは、いつだろうか。
それまでに、次の目的地を定めなければ。
ここが「目的地」では、ないのだから。




