Ⅲ 王都の消息ーⅷ
護衛を始めてユリゼラとも話すようになり、彼女の聡明さは噂に違わないことを認めていた。この世界の現状を、これほどきちんと認識出来ている姫は、世界広しといえどもユリゼラだけではないかと思える。そしてこの土地のこと、取引先のこと、近隣の領地のこと、その内情。女性にありがちな服飾の関係など、話のきっかけ程度にしか話さない。それがまた、ハーシェルには心地良かった。
「ああ。今年は綺麗に実が付いたのね」
「あれは?」
「王都にまでは運べないのでご存知ないかもしれませんわね。ヨナの実と言いますの。花が旺盛に咲くのですけど、実がそれほどならなくて。でも、瑞々しくてとても甘いのです。そうですわね、味は少し桃と似ているかもしれません」
ユリゼラが見上げる先には、ワインのような色の真ん丸な実があった。
「召し上がっていただきたいけれど、熟すまでにはもう少し時間が必要ですわ」
「それは残念。ここに来て、王都では見られなかった食べ物がたくさんあるのが、ひとつの楽しみです」
「ダリ様は王都から出たのは、初めてでいらっしゃるの?」
「ええ。王都の両隣、くらいはありますが、こんなに遠くまで来たのは初めてですね。思い切って飛び出してみて良かった」
「旅は危険なものだと聞いているのですけど、あなたほどの腕があれば心配も要らないのでしょうね。私も、いつか遠くまで行ってみたいわ」
ユリゼラの瞳が夢を見るように輝き、ハーシェルは「王都にはご興味がないのですか」と聞いていみる。
「もちろん王都にだって行ってみたいし、宮廷にだってあがってみたい。王子様に手を取られて、華やかな空気の舞踏会にだって出てみたいという、夢もありますわ」
そこは年頃の女性らしい夢だろう。
「ユリゼラ殿なら、あっという間に宮廷の花として社交界の人気者になりますよ。王都には多くの姫がおいでだが、ユリゼラ殿ほど美しくて賢い姫はいない」
「あら。ダリ様まで上手なことを仰ってくださるのね」
くすくす笑うユリゼラは、ハーシェルの言葉を完全に社交辞令としてとらえている。それが本当だと伝えたい気持ちもあるが、ムキになるのもおかしな話だ。
「たとえばサンドラ副官が男だったら、手を取られてみたい?」




