Ⅲ 王都の消息ーⅶ
「女性ですのに、副官におなりになるほどの実力をお持ちなんですか?」
「ええ。あいつなら、そのうち長官にもなれるのでは。腕はかなりのものです」
彼女にまだ一度も勝てていないことは、この際伏せておく。
「で、姫の今日のご予定は」
「あ……気分も良くなったので、少し散策をと思っていたのですけれど。しばらくは館の中でおとなしくしておきますわ」
「構いませんよ。屋敷のまわり程度でしたら。こちらも警備が強化されていることですしね」
「では、支度をして参りますわ。少しお待ちになって」
嬉しそうにほころんだユリゼラが部屋の中に駆けていき、男爵の優しい視線がそれを見送る。
「すまないな。ユリゼラのわがままに付き合わせて」
「いいえ」
「君が来てからは良い刺激にもなっているようで、ユリゼラの表情が明るくなった。すっかり足止めをしてしまっているが、感謝している」
「そう仰っていただくほどのことはしておりませんよ」
そうか、と微笑み、男爵がそうだと思い出したように言った。
「十日後、ユリゼラの二十歳の誕生日を人を集めて催すのだが、避けたほうが良いだろうか」
「いえ。それは大丈夫でしょう。彼らが来たからには、十日もあれば片付いているかもしれない」
「そうか。それは頼もしい。もし片付いていても、ダリ殿は出席してくれるかな。ユリゼラも喜ぶ」
「いえ、私は。そういった場にふさわしい衣装の持ち合わせもありませんので」
「それくらいはこちらで……」
言いかけた男爵だったが、帽子を被ったユリゼラが現れ、口を閉じる。行っておいで、と送り出され、ダリはユリゼラと歩き出した。
「十日後は、お誕生日だそうですね。おめでとうございます」
「ありがとうございます。二十歳までは生きられないだろうと医者から言われていたと、両親がよく申しますので、それだけでも親孝行が出来たのかと思っていますわ」
ユリゼラがゆっくりと微笑み、ハーシェルもつられる。




