Ⅲ 王都の消息ーⅲ
「父上は、相変わらずか」
「ああ……ますます、ひどくおなりだ。それから、これはまだ伏せられているが……」
「兄上たちに、何かあったのか⁉」
ガゼルがサンドラと目を合わせ、覚悟を決めたように言う。
「お前が王都を出た日、皇太子殿下が、殺された」
「……」
「ブライス殿下とミューテル殿下の行方もわからないままだ。嫁がれた姉上も、今は身を隠しておられる」
「姉上は、ご無事なんだな」
「ああ。それは心配ない。ただ……エリゼル殿下の訃報を聞いて、流産されたと、聞いている」
「……っ」
王都を落ちる自分を心配してくれた、姉の表情を思い出す。懐妊していたことも知らなかった。
「ハーシェル」
サンドラの女にしては低い声が、ハーシェルを現実に引き戻す。
「王都に、戻らないか」
ガゼルの真剣なまなざしに、ハーシェルは言葉を失った。
「それは……」
言葉にするのが恐ろしく、ハーシェルはガゼルをじっと見据えた。
兄二人の生存に対して、見込みがないということ。
そしてその先には、王を倒せと、そういうことだ。
「俺は……」
「お前ならやれると、俺たちは思っている。俺たちが出て来てから、クレイセスからゼグリア便が来た」
そう言って、ガゼルは懐から手紙を二つ取り出し、一つをハーシェルに渡した。
「覚悟を決めて読め」
一瞬躊躇したが、ハーシェルはそれを受け取る。広げた手紙には見慣れた几帳面な文字が、信じられないことを告げていた。
「まさか……! 父上が、コルネリア后妃を手にかけるなど!」
一番の寵を得ていた、位としては二番目の妃だ。ほかにも、後宮に詰めていたあらかたの女性が殺されたことが記されている。
「王統院は、もう機能していない」
静かに告げるガゼルに、ハーシェルの手が自然と震えた。
「セルシア院に代行業務が大幅に増えたが……もうこれ以上は無理だ。次に来たのが、この手紙だ」
頭が、拒否しようとしているのか、どこか現実感がない。ガゼルからもう一つの手紙を受け取ると、ハーシェルは一見して額に手をやり、ため息をついた。
セルシア、消息不明、と。
「どういうことだ……」




