Ⅲ 王都の消息ーⅰ
「うわああああああ!」
部屋に入り、自分の姿を見た途端に驚いた友人に、ハーシェルは「しー!」と人差し指を立てながら目を剥く。
「どうなさいました!?」
扉の向こうから様子を伺う声に、ハーシェルは一瞬身を硬くした。
「なんでもない! 虫だ! 虫が落ちてきて驚いただけだ」
その答えに、ハーシェルは思わず噴くのをこらえる。様子を見に来た騎士は一拍おいて、そうですか、と疑念を抱きつつも納得して去る気配がした。
「お前が虫に怯えるような玉か、サンドラ」
「少しはそういう可愛げのある言い訳を使えと言われたんだ」
「誰だそんな無駄な入れ知恵したの。つーか、この部屋はガゼルに宛がわれるのかと思ってたんだが」
「あいつの部屋は向かいだ。呼んで来るから待っていろ! 話はそれからだ!」
言うが早いかすぐに飛び出した彼女は、向かいの扉を破らんばかりに激しく叩き、「出て来いガゼル、話がある!」と呼び出す。ほどなく二人で戻って来て、ガゼルは目を見開いた。そうしてすぐに破顔する。
「無事だったんだな、お前」
「ああ。そうそうくたばってたまるか」
「手紙は読んだ。まさかここで会えるとは思わなかった」
「俺もだ。中央から長官が来ると聞いて、これは若造に振られる役目だろうと思って待っていたんだが。サンドラ、今はガゼルの副官なのか」
「ああ。先の討伐隊で、ガゼルの副官が亡くなったからな。急遽辞令が下りたんだ。ハーシェルはここで何してるんだ?」




